満足度★★★★★
鑑賞日2020/02/01 (土) 13:00
2020.2.1㈯PM13:00 池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
明け方地震に揺り起こされたものの、麗らかに晴れた土曜日の池袋を、池袋シアターグリーン BIG TREE THEATERへREON NEO COMPANY vol.2『帝都メルヒェン探偵録~幽霊屋敷のブレーメン~』を観に足を運んだ。
2階にある劇場へ入り、前から3列目の真ん中の席へ着くと目の前には、この物語の舞台となる“カフェグリム”の店内が現れる。
階段を下り、舞台右手に千崎理人の教育係であり、店主小野カオルに仕える“カフェー・グリム”の店員三宅が、珈琲を淹れるカウンター、舞台の左右に二人掛けの席が一席ずつある“カフェー・グリム”を舞台に起こるひとつの事件。
伝統とモダンが、新たな市民文化を花開かせる帝都。昭和の初め、ドイツ人の母を持つ華族の青年・千崎理人は、乙木(おとぎ)夫人が経営するカフェで知り合い、仕事を紹介してもらおうと訪れた乙木夫人のサロンで出会った謎の美少年小野カホルに、理人に職と住まいを用意する代わりに、グリム童話に擬え、3ヶ月の間に自分の本当の名前を当てる賭けを持ち掛かけられると同時に、「自分が事件を解決するから、『探偵』として表に立ってほしい」と頼まれた事から、華やかな昭和の初めを舞台に、理人は「少年助手を従えた美貌の探偵」として、様々な事件に巻き込まれていく小説『帝都メルヒェン探偵』を原作に、舞台の為に書かれたオリジナルストーリーとオリジナルキャストを加えて描かれる物語、それは。
とある日、千崎とカホルは明治末期に活動した「音楽隊」と名乗り強きをくじき弱気を助けると人気のあった窃盗団とその手口を模倣しているが、なりふり構わず人を傷つけて盗む強盗団のやり口に違和感を感じるという常連客遊馬親子の話をカフェー・グリムで耳にした同じ頃、新人画家・宇崎善太郎(うざきぜんたろう)と新人音楽家・吉永侑哉(よしながゆうや)に出会い「幽霊屋敷」の怪談話を聞いた千崎たち一行は屋敷へ赴き、巻き込まれる事件とは……という物語。
全編オリジナルの楽曲による【CLASSICAL ROCK MUSICAL】と銘打っている如く、幕が開いた瞬間、千崎(冨森ジャスティンさん)の独白から、舞台の主題歌から始まり、登場人物たちが現れ歌い上げ、踊り、華やかに物語の中へと誘われる所から高揚感に包まれた。
REONさんが『帝都メルヒェン探偵録』を舞台化すると聞いてすぐに原作を読んだ時からイメージしていたそのものの冨森ジャスティンさんの千崎に瞠目した。
漫画や小説が原作の場合、読者がイメージしていた登場人物と余りにもかけ離れていて、残念な事も多々ある中で、今回のこの舞台はイメージ通りの登場人物たちが目の前に現れたので、小説を読んでいた時のように自分がその物語の中に迷い込み、物陰から見ているような臨場感があった。
観ながらふと、頭の中を「ねずみ小僧次郎吉」や「石川五右衛門」「大岡越前」が過ぎった。
これらに共通するのは、義賊と呼ばれた盗賊の話し。この物語の窃盗団「音楽隊」も義賊のように扱われ庶民に人気があった。
けれど、盗んだお金を施す事で助かる人がいる反面盗賊に間違われたり、お金を奪われた事で、人生が一変し、謂れのない労苦を強いられ不幸になった人もいるのではないか。
金持ち=悪、悪どい事をし、人を傷つけて金を儲けた人たちばかりではない。金持ち=悪と決めつけ、根こそぎ金を奪った窃盗団「音楽隊」によって、犯人と間違われ、人を傷つけず仲睦まじく暮らしていた家族の幸せと夢を奪い、一家離散になった子供たちが強盗団「音楽隊」を名乗り盗みを繰り返し、人を傷つけた強盗団になった者たちの憤りと悲しみと悔しさを思う時、正義と悪の紙一重、表裏一体の怖さと危うさも感じた。
自分の育った家を強盗団のアジトにされ、家業の不振から家を手放し、一家離散になるも、悪に走らず、画業に打ち込みながらも孤独と切なさを抱えて生きていた画家の宇崎(古畑恵介さん)を包み、前を向かせたのは千崎や花村(REONさん)たちの温かさと思いだったのではないか。
人は人によって、傷つけられもするが、また、救われもする。
観終わってしみじみ、人っていいな、人が好きだなと思った。
もうひとつ、最後に付け加えるならば、音楽と踊りの素晴らしさ。役者さんの超えと歌が素晴らしく、ダンサーさんたちの踊りが格好良かった。
特に千崎(冨森ジャスティンさん)、花村(REONさん)、一谷(大橋篤さん)、三宅(川井康弘さん)は、原作のイメージそのままで素晴らしく、遊馬(楠田敏之さん)の声と歌、宇崎(古畑恵介さん)が好きだった。
ミュージカルの楽しさと物語の面白さに惹き込まれた舞台だった。
文:麻美 雪