私たちは何も知らない 公演情報 ニ兎社「私たちは何も知らない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    大正リベラリズムのはかない運命はよく芝居になる。ようやく女性が男性と対等な価値観で登場してくるので、現代劇としても作りやすく、共感も得られやすいということもあるのだろう。今年だけでも、「渡り切れぬ橋」(温泉ドラゴン)や「赤玉gangan」(秋野桜子」が近い時代のメディア界を舞台にしている。旧作だが「絢爛とか爛漫とか」(飯島早苗)もあった。古典となれば、宮本研の「美しきものの伝説」、これは68年の初演だから、素材としてはエバーグリーンである。底流にはこれも不滅の「敗者の美学」がある。
    新味を出すのに苦労するところだが、この永井愛の新作は、必ず出てくる人物たちを史実に沿って描きながら、いままでの「元始太陽もの」にない魅力があった。それは、未知の海に無茶を承知で漕ぎ出す者の魅力とでも言ったらいいだろうか。そこが描けている。
    登場人物たちはどこか心細げであるが、でも、それぞれの手持ちの櫂で漕ぎ進んでしまう。そこには政治や生活の打算を超え、さらには今を流行りのジェンダー論を超えた人間たちがいる。しかもなお、彼らは「女」なのである。
    キャストがうまい。朝倉あき、藤野涼子、夏子。登場人物たちの会話にはほとんどお互いの共感のシーンがない。独立して、それぞれの人物を際立たせる演出もうまい。
    女性的でありながら、それを客観視して書けるこの作者ならではの作品である。現代メディア批判はもう、ほかの作者に任せて(いくらでも書き手はいる)、「書く女」に続く作品を期待したい。

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    2019/12/16 11:16

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