「隣の家-THE NEIGHBOURS」 「屠殺人 ブッチャー」 公演情報 名取事務所「「隣の家-THE NEIGHBOURS」 「屠殺人 ブッチャー」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    カナダの作家ビヨンの2作品公演。初演を見逃した『屠殺人ブッチャー』を数ヶ月前から今かと待ち続け、観劇日を迎えた。2年前に同じ「劇」小劇場で上演された同じ扇田拓也演出による『エレファント・ソング』も同じ作者。今回の一方の作品『隣の家』は名取事務所への書き下ろしという。
    再演ではキャストが2名変わり、ついその事を意識して観てしまう。男性3名と女性1名の4人芝居。女役は初演が森尾舞(今回「隣の家」に出演)の所、渋谷はるか(中々見合う人選だ)。若い弁護士役も名取事務所の常連・佐川和正の所、西山聖了。演出者も初演の小笠原響は今回「隣の家」演出のため、代わって『エレファント・ソング』を演出した扇田拓也が当った。
    という事で、果たしてどんな違いが・・と言っても初演は観ていないので想像しながらであったが、最終的にはそんな事は忘れた。上演前半で各所に残した違和感は全て回収され、この架空の国をめぐる実しやかなドラマをリアルに想像させられた。
    久々に舞台で観た渋谷はるかはやはり印象に残る演技者。

    ネタバレBOX

    謎解きの面白さも然る事ながら、究極、復讐というものをどう考えるかを迫られる劇。
    近代以降の国民国家では、国民は国家権力を唯一の暴力装置として承認し、仇討ちの権利は返上した。銃刀を所持することは禁じられ、ある無法な所行がどのような罰則に値するかを決定するのは国家であり、加害者を罪人と認定し、刑罰を下すのも国家である(民主国家は民意によって実定法の改廃は出来ても権力装置の本質を変えるのは困難)。国家の秩序維持のための方法は、加害行為に応報する効果は第一義でないのに国民国家の「常識」として受容されている訳だ。果たしてそれは正しいあり方なのだろうか・・。
    芝居では、ある国で起きた内戦で一方が収容所を作り民族蹂躙の陰惨な手法を実践し、紛争終結後に逃亡した将校の最後の一人が、対立民族側の追跡組織につかまり、制裁を加える場面が後半展開する。
    必殺仕事人は必要であったという話なわけだが、現実起こった事として女がそれを語るとき、泣き寝入りさせられたあらゆる「被害」に対しもう一つの選択肢について考える事を促される気がする。
    女は自らが体験した悲惨な出来事ゆえに、加害者に対する感情を切り離す事はできないが、組織の一員として正義が行われる事への信念を貫いている形象があった。
    過去の自分(少女)を見つめ、己の今の在り方を検証するかのような終幕の構図は、「解決」の甘味な後味を遠ざけ、秘かに問いを残した。

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    2019/10/25 14:57

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