木立によせて 公演情報 芸術集団れんこんきすた「木立によせて」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    本公演は第1部、第2部あわせて上演時間2時間30分(途中休憩15分)、その時間もさることながら、内容的に”学び”を通して人間讃歌を高らかに謳った力作。久しぶりに拝見した 芸術集団れんこんきすた公演は、第1部の1910年代の先生と生徒の相互の視点、第2部の1920年代の先生の変化した観点と生徒の思いを全編通じて抒情豊かに描いている。それを役者陣が熱演をもって観(魅)せてくれる。

    この公演は、観劇後に観客が金額を決める言い値公演となっており、「本当に観て良かった」と思ってもらうための作品作り、妥協なく創り上げるための挑戦でもあると。
    素晴らしい公演であることを前提に、卑小とは思いつつも少し気になったところが...。

    ネタバレBOX

    第1部「ポプラの淡き翼」、第2部「白樺のいたむ瞳」で、舞台セットは基本的に同じ。上手側に木のベンチ。1部と2部のセットの違いは、新緑と冬の枯れ木、2部には下手側に椅子が1つ置かれる。気になるのは舞台となるのが、キルギスの田舎村であるが、後景はチラシの絵柄と違い鉄扉で鉄鋲もある。広大な放牧地帯のような台詞に似つかわしくない。後景の工夫が難しいようであれば暗幕にしてはどうか。

    第1部「ポプラの淡き翼」
    キルギスの田舎村。そこに住んでいるロシアから来た女性オリガと村の少年ジェイシェンとの交流から物語は始まる。待ち合わせの場所に遅れてくる少年を叱る先生。約束の時間を守らない事+嘘の言い訳をすることを叱っている。何気ない会話の中に村の事情と少年の心情が次々と語られる。第1部は大括りに3話で構成されている。先生の観点から①少年の無知・無恥振り、土産と称し牛馬の糞を持ってきて、その効用と効率的な労作業への疑問と提案に驚き(12歳前後)、②知識(読み書き計算など)を付けるが、驕り真に活かされていないことへの諭し(15歳)、③村を出て国(ロシア)のため戦場へ行く(18歳)。自分で認めた信念であるが、教師は戦場へ行くことの無意味さを説くが…。
    最後は、戦場での恐怖に耐えながら書いた先生への手紙-学んだ結果、戦場という死地にいることへの後悔。学ばなければよかったと…。手紙を読んだ先生の哀しみ、慟哭が痛ましい。

    第2部
    1部から10年あまり後の話。村の少女アルティナイは結婚の条件として読み書きと計算の習得を言われていた。そこでオリガに教わることになるが。冒頭オリガが約束の時間に遅れてくる。1部と逆の展開であるが、ここにオリガの今の心境が描かれる。ジェイシェンの死は、教えることの空しさ、もしくは恐れを抱いたかもしれない。しかし少女の学ぶ熱意、姿勢に絆され教え始めるが…。第2婦人として40歳以上も年上の男と結婚、その見返りが羊1頭というもの。そこに当時のキルギスの貧富格差、さらにはロシアへの従属という事情が浮き彫りになる。少女は誓う...学びの証として自分が出来ることは、幸せに生きること。ラスト、共に学んだ生徒としてジェイシェンの手紙の真意が分かるという。”学ぶ”ことの意義、人生を豊かに暮らすための人間讃歌が語られる。当時のキルギスの女性たちに課せられた運命、選択肢のない生き方。しかしアルティナイにとって先生の教えにより、彼女は学問を通して生きる価値を見出すという感動作。

    1部・2部に共通しているのは、学びは人生を切り開くすべを示唆し、切ない結末でも「希望」を持てば可能性は残されている。人生は未来があれば耐えられる、かもしれない。「希望」という言葉に象徴されるような結末、実に観応えがあった。主題は「学び」であるが、その対としての「教え」の無意識な傲慢さも垣間見せる。例えば、ジェイシェンに教えた言葉はロシア語であるが、本来であればキルギス語ではないか。当時キルギスはロシアの属国であり、「教え」にも その地の文化や風習・習慣を無意識に無視することもある、そんな皮肉が込められているようだ。

    さて、物語は1部2部を通して面白さが倍加する。しかし第1部だけでも完結できそうな展開なのに対し、2部は1部の救いの物語で、インパクトが弱いように思う。確かに虐げられ何もかも奪われていく中で、学んだこと-読み書き、計算は自分の頭に吸収、蓄積し奪われることはない、という台詞には胸が締め付けられる。しかし、1部の12歳頃から18歳迄の時間軸のある”学び”、外見的な変化(例えば風貌、衣装)などは劇的な観せ方をする。2部は結婚までの期間であり外見的な変化は見られない。物語は少年、少女の置かれた立場や境遇という心象劇であるが、それでも2つの話の流れの印象・インパクトに差があったように思えたのが少し残念。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/10/05 23:09

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