満足度★★★★
たまに観るこまつ座。今回は説教節で物語られる「その昔」(平安時代?)のお話。井上ひさしの初期の作品との事だが、高貴な家の兄妹が犯した近親相姦の顛末を作者が敢えて書いた背景は知らないし、原典の有無(創作かどうか)も知らない。結論的には、良いものを観た。芝居のあちこちで不思議とくすぐられる。高揚感もある。
日本に近親相姦に対する禁忌が存在したのかも私は知らないが、説教節の一つの演目であるのなら仏教の戒律にあるのかも知れない。
ただ性の過ちを自らの「罪」として内在化する精神構造はどこか西洋的で、「物語」を終えた語り部が、聴衆と対峙するラストは聖書の逸話を思い出させた。
因みに「穢れ」の観念は外的な(世間の)視線を内在化する事はあっても、「罪状」に対する内省はなく人を更生させることはない。
1980年代のスイス映画に『山の焚火』という秀作があった。芝居の前段の状況はこれに近いものがあり、後段のは『オイディプス』だ。もっとも本作は「悲劇的」が目的地ではなく、母が「女」の顔を見せる部分が艶笑譚のタッチであったり。不思議な味わいだ。初演時の宇野誠一郎の音楽に時折、現代感覚の音が入るのが良く、舞台を締めていた。