満足度★★★★★
鑑賞日2019/09/14 (土) 14:30
2019.9.14㈯ PM14:30 コフレリオ新宿シアター
夏も背中を見せ、秋めいて涼しい風の吹く土曜日の昼下がり、東新宿から程近いコフレリオ新宿シアターに、劇団現代古典主義 The 4th floor series vol.3『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』を観るため足を運んだ。
16世紀にイギリスでトマス・キッドが発表した16世紀末のスペインを舞台に息子を殺害された司法長官ヒエロニモが、法と理性の間で苦しみながらも復讐を果たす物語として描いた「スペインの悲劇」に独自解釈を加え、劇団現代古典主義独自のステージを複数に分割して物語を同時に進行させる“同時進響(しんこう)劇”として3時間かかる舞台を70分に凝縮し、分かりやすく、強く心に響き残り、のっけから観客を物語の中に引き込む舞台として展開する。
この『スペインの悲劇』は、シェイクスピアの『ハムレット』の原案になったと言われ、復讐劇の先駆けとなった舞台で、シェイクスピアが現れるまでは、1587年のイギリス初演以降15年間に渡り上映されたヒット作でありながら、シェイクスピアの人気の影に隠れ、現在では世界でも殆ど上演される事がなくなり、日本でもこの『スペインの悲劇』を上演し観られるのは、私は、劇団現代古典主義しか知らない。
舞台上に舞台装置はほとんど無い。有るのは、舞台と客席の境界線のように置かれた低いフェンスとその上に等間隔で1列に乗せられたロウソク型のライトのみ。
この簡素な舞台で繰り広げられるのは、16世紀スペイン、世界最大の植民地帝国として隆盛を極めた黄金時代スペインが、ポルトガル支配の成功にファンファーレが響く中、華やかな劇中劇で幕が上がる中、一介の司法役人ヒエロニモの息子ホレイショーの遺体が発見され、宮廷に不穏な空気を垂れ込め、息子が殺害された理由すら分からないヒエロニモは、暗闇を手探りするように真相に迫り、息子を殺された事を知り、哀しみと怒りに震えるヒエロニモは、宮廷内にいる筈の殺人者へ復讐心を募らせ、一人スペイン帝国に立ち向かう悲しく痛ましい復讐劇。
明日が千穐楽の舞台、これからご覧になる方もいられると思うので、あまり詳(つまび)らかに書くのは控えるとして、舞台を観た全体の感想と見どころを書くに留めておきます。
全体の感想としては、凄い、素晴らしいの一言に尽きる。
舞台装置もほとんど無く、照明も極限までに絞った、仄暗い中で紡がれて行くのに、登場人物の表情が一層際立ち、その声と動きと相まって、息子を殺されたヒエロニモの絶望と悲しみと憎しみ、国家利益のためには手段を選ばないスペイン王族たちの醜さと非道さとその者達によって引き裂かれたヒエロニモの息子ホレイショーと恋人のインペリアの純愛、ホレイショーを殺されたインペリアのスペイン王族への激しい憎しみとホレイショーへの愛の深さ、息子を殺され絶望と烈しい憎しみの果てに自死を遂げた母ダニエラの胸を裂くような悲しみが、全身に響き、その場に居合わせたかのように迫って来た。
3時間ある舞台を、独自の視点と解釈を加えた上に、70分に凝縮し1つの舞台の上で、複数の場面を同時進行して見せながら、一切破綻なく、尚且つこの話を初めて知り、観る人にも話の筋が分かりやすく、それでいて最初か観客を物語の中に引き込み、一つの完成された舞台として観せる凄みと素晴らしさに溢れた舞台だった。
見どころは、16世紀当時を再現した仮面をつけた劇中劇とフェンシングでの殺陣、そして何より、役者さんの表情と声。
言葉の一つ一つがくっきりとその人物たちの輪郭と表情を感じさせ、尚且つとても聞き取りやすく、感情を声でコントロールしながら、それぞれの人物の心情を現し、だからこそ、思いと感情が込み上げての慟哭や叫びがより際立つ。
フェンシングでの殺陣は、その美しさと激しさと迫力に圧倒される。
仮面をつけた劇中劇は、フェンシングの場面や劇中劇以外の身体の動きの違うことが分かる凄さ。
登場人物たちの命が消えるのに呼応して、フェンスの上のロウソクが消える細かい演出。
観終わって胸に渦巻いたのは、凄いものを観た、凄い、面白い、感動という言葉が不思議な興奮と高揚感を持ってグルグルと駆け巡り続ける感覚。
去年は、父が亡くなり慌ただしくしていて、観ることが叶わなず、ずっと観たいと思っていたこの舞台を観られて心から良かったと思った。
文:麻美 雪
2019/09/17 23:53
足をお運びいただきまして、そしてこのようなご感想をいただき本当にありがとうございます。一文字一文字、公演を思い出しながら書いていただけたと思うとこんなに嬉しいことはございません。
今作をお届け出来て本当に良かったです。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。