満足度★★★★
シアターガイドなき今、こんな馴染みのない小屋で上演されたのでは見逃してしまうではないか。流石、岸田戯曲賞受賞作品。どこでも見ることのできない見事な寓話劇である。
劇場へ入ると、そこは船の甲板を模した客席。バラバラに置かれた約百席の椅子。選曲の良いラテンリズムの入れ込みの音楽で、観客は世界を飛ぶ。
幕が開くと、客席から登場した三人の南米の男優がスペイン語(ポルトガル語?)で語り続け、ひとりの女優がそれを見まもるという舞台。舞台には切り出しの小型自動車と、ブルーシートを海に見立てた遠見。その前で主に父の遺骨の箱を持つ男が語るのは、ヨーロッパから南米へ、さらに沖縄から小笠原列島へと連綿と移っていく悠久の人類の寓話である。人類はどこからきて、どこは行くのか? そのテーマが父の遺骨の行方と重なり合う。
簡素なセットも効果を上げる。歌舞伎ではないが、幕を落とすと砂漠が現れるシーンなど、観客の心をつかむ。終始無言の女優も素晴らしい。
寓話の中にリアリティを忍ばせて90分。まったく飽きることはない。台詞が続き、字幕を読むのに疲れるが、ここは、日本の俳優で、日本語では成立しないだろう。そこが難しいところではあるが、ここには原酒の生一本の酒をたしなむような快感がある。
満席。いつもの小劇場では見かけない静かな若い客が多かったのも新鮮だった。