オリエント急行殺人事件 公演情報 エイベックス・エンタテインメント「オリエント急行殺人事件」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    珍しく二階席まで満席のこの劇場でクリスティの名作ミステリを見た。
    何度もテレビ・映画化された名作中の名作。ネタバレを言うまでもなく、ミステリでは肝の犯人も、仕掛けもご見物衆が先刻ご存知の世界である。
    脚本はアメリカの中堅の劇作家だが、この「オリエント急行」はまだ欧米の大きな劇場にかかったことはないようだ。日本初演。クリスティの他の劇化作品と同じようにほとんど原作を踏襲した要領のいいホンだ。登場人物も十一人に絞ってはいるが原作をうまく使っている。
    エキゾチックなオリエント急行にイスタンブールから乗り込んだ個性も国際色もばらばらな乗客たち。シリアでの仕事を追えて帰英する名探偵ポワロ。
    何やら不穏な空気を含んで、雪の中を驀進する豪華国際列車が雪だまりに乗り上げて停車を余儀なくされている間に起きる殺人事件。さて犯人は?迄が第一幕、60分。二幕はおなじみの謎解きで95分、休憩が15分あるのでほぼ3時間の長尺であるが、飽きずに見せる。
    成功したのは、テンポの良さ。演出の河原雅彦は、今の観客が興味を持ちそうもない時代考証やディティルにはこだわらない。思わせぶりな推理より、登場人物のキャラクターの面白さや、具体的な証拠による人物の動きで進めていく。二重になった舞台で、上段に、八つの個室のドアがある廊下、下段にパブリックスペースである食堂車という装置をうまく使って、細かい証拠はスクリーン投射しながらどんどん進む。その前に車窓をスライドで出し、スモークと照明を飛ばせば、オリエント急行の走りも舞台で見せられる。
    ポワロは小西遼生。ミュージカルが多いが、従来の原作の小柄な禿頭の小男にとらわれない長身の若いポワロで歯切れよく、颯爽と事件を裁く。登場人物には若者人気のタレントもそつなくキャスティングしてある。
    この作品が舞台化されたのは今回が初めて。走る列車の中だけで物語が進む本格ミステリであること、知名度が高いために結末が知られていること、探偵役の個性の強さ、など舞台に乗せるのを逡巡する難しさがあった。しかし、やって見れば、出来るじゃないか。現に大入りである。ところが、同時に原作の読者や映画でこの世界に馴染んだファンからは「これは違う!」、という声も出るだろう。
    そういう矛盾は、時を経た名作舞台化では必ず起きる。八十年前に書かれた原作だから、今受ける役者で、今も面白い部分でまとめる、その方が時代に沿った舞台化だ、という今の制作者の考え方への反論である。それはない物ねだりとも言える。
    この「オリエント急行」は、物語は大きく残しながらスタイルとしてはかなり思い切って、現代化を試みて面白く見られる舞台にした。そこは成功しているのだが、同時に何だか2・5ディメンションのような、いいとこどりの味気なさもオールドタイマーは感じる。その先に未来があるのか、あるいはここは踏みとどまるところなのか、この芝居の最後の一点のような課題は残ると思う。

    ネタバレBOX

    ラストは原作とちょっと違う。

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    2019/08/15 14:31

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