時代絵巻AsH 其ノ拾四『紺情〜こんじょう〜』 公演情報 時代絵巻 AsH「時代絵巻AsH 其ノ拾四『紺情〜こんじょう〜』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    本公演は近作と違い、歴史教科書で学ぶ人物ではなく、歴史が詳しいまたは好きな人が知る人物に焦点を当てている。物語の主人公は島津豊久、島津家宗家の縁戚ではあるが当主ではない。そのような人物を描くからには何らかの理由(わけ)、例えば人間的魅力などが挙げられよう。説明文には「主を重んじ、忠を尽くし、義に篤く、情深き、薩摩の戦人」とある。そんな男の半生を描いた武骨劇。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    セットは、この劇団の基本的な造作(家屋と中庭のような)は変えていないが、その雰囲気は平安時代末期と戦国時代を描いた今作とでは違う。源平物語の時は、寝殿造りのようであったが、今回は書院造りのように思える。欄間には雲形や流水といった形、襖は朝顔の絵柄が描かれ時代感覚の違いを観せるような工夫が好い。

    物語は、関ヶ原の合戦を経験した老人の回想話として展開する。老人が仕えた武将が島津豊久で、本公演の主人公である。その豊久の元服時から関ヶ原の合戦で戦死するまでの半生を情緒豊かに描いている。公演は、一武将の生涯を通して当時の封建制度をしっかり描く。封建制度の象徴が”家”であるとすれば、島津家という家(殿)を守るために忠義を尽くす。公演では2度の合戦シーンがあり、初陣の戸次川の戦い、2度目が関ケ原の戦いである。そのどちらの戦いでも大将は死んではならない。大将が死ねば家臣は後追い自害したり混乱を来し多くの兵士が死ぬ、その台詞によって島津”家”を通して封建制度の理不尽さを鮮明にさせる。当時にしてみれば、それが忠であり義であろうが、現代から見れば不条理の極み。また時が前後するが、豊久の父が独断で豊臣方と和議(実質的な降伏)をした際、実兄(当主)に非が及ばぬよう自刀して責任を取る。そこにも島津家という家の存続が見える。

    さて、勇猛果敢な武将ぶりを描くだけでは、近作の源平物語の時代という流れに身を投じた武士のスケール的な魅力に及ばない。豊久という武将の魅力は何か?彼にとって関ケ原の戦いは何だったのか?といった「存在」と「意義」が示されれば、物語にある”時代”とそこに生きた”人物(武将)”としてもっと深みが出たと思う。冒頭の老人に対して関ヶ原の戦いは、という問いに豊久の名をあげるだけで…やはり薩摩隼人を伝え続けるためか。観客にはさらに幕末まで思いを馳せさせるのだろうか。

    その薩摩隼人の在り方、武将としての心構え、親子の情と非情など人間的魅力をしっかり引き出すところは見事。その場面は情感に溢れ、実に印象的である。そしてこの劇団の魅力である殺陣シーンでは敵味方を区別する工夫を凝らす。例えば関ケ原の戦いでは、目前の敵が赤揃え甲冑の井伊軍、豊久率いる薩摩は黒軍団であることから交戦(殺陣)シーンでは一目瞭然である。殺陣シーンは2度の合戦に絞り、豊久の勇猛ぶりは台詞(例えば「朝鮮の役」は思い出話)で補う。本公演はどちらかと言えば、一武将としての人間的魅力を前面に出し感情移入させるような描き方で観客の心を捉えたと思う。
    次回公演を楽しみにしております。

    0

    2019/06/17 00:44

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大