ONとOFFのセレナーデ 公演情報 ことのはbox「ONとOFFのセレナーデ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「生・死」と「存在・不在」を交差させ絡めた感動作。生死は主人公の職業が葬儀屋であり、存在・不在はタイトルのON/OFFがインターネットでの繋がりを暗示している。もちろん生と存在、死と不在の掛け合わせも意味する。
    物語も面白いが、「ことのはbox」らしい演出...阿佐ヶ谷アルシェという比較的小さな劇場に、人生の喜びと最期を思わせる舞台美術を出現させる素晴らしさ。
    (上演時間1時間45分) [葉チーム]

    ネタバレBOX

    暗幕の間に白布を巻いて垂らした形が神殿柱のようで荘厳なイメージ。同時に後景全体が鯨幕といった感じにする。暗幕を刳り貫き(PC画面イメージ)チャット仲間を登場させることで遠隔地(北海道・大阪と某所)を演出する。舞台は病院内にある葬儀屋であり、上手側に机やパソコン、中央にソファー、下手側にTVモニターといった作りである。そこで展開する物語は、生と死に関わる仕事を生業とする人々を交錯させることで浮かび上がる矛盾。

    生まれ出悩み...人は生まれた時から死に向かって歩み出す。何のために生まれてきたのか、などと哲学的なことは描いていない。むしろ生きるために人の死を待ち望んでいるような仕事-葬儀を通して見る”人の最期の遺志”とは...。
    死者の弔い方について、葬儀屋と遺言バンク屋との遣り取りを通して、死んでも自由にならない自分の思いが切なく描かれる。葬儀費用は、その時になって初めて知ることが多い。相場があるような無いような、気が動転している遺族にとって葬儀屋の提示額はそのまま受け入れる。そこには死者の弔いと同時に親戚も含め世間体を気にすること。一方、遺言バンクは生前遺書により死者の遺志を伝える。時に散骨(法的なことには触れていない)を希望する場合もある。劇中ではその遺志はほとんど無視され、遺族の世間体が優先する(葬儀は死者が主人公だと思うが、実際はそうではない)。死んでも自由にならない故人の遺志をあざ笑うかのように...。

    物語は、葬儀屋...ハンドルネーム「ヤリタイ」がチャット仲間の「小夜子」「天涯孤独」と交信しているところから始まる。ある夜、4人目の仲間「シタイ」から全員に謎の電子メールが送られる。[最寄りの交番に出向き「小野」と名乗り、黒いセカンドバックを受け取ること]。3人は訝しみながらもその指示に従うが…。
    それまで葬儀屋「シタイ」は、その生業から死(者)に対して乾いた感情で接していたが、あるビデオメッセージを観て動揺する。そして死者の遺志の想いと重みを知ることになる。そうした心情になるまでの過程(死=金儲け、遺言バンクを通じて遺志の存在、仲間の死で思う尊厳など順々)が実に細やかに描かれる。舞台美術が鯨幕のようなモノトーンな雰囲気の中で、チャットの快活な会話というアンバランス。そこに死と生の在り方を表現する巧みさ。そして時々交わされる天気の話題...雪が舞っている状況と散骨の話の後、上手側で白いものが舞い落ちる絶妙さ。

    さて疑問が1つ。シタイは「ヤリタイ」「小夜子」「天涯孤独」の素性や住所を知っているようだが、どのようにして知ったのか?またヤリタイが葬儀屋と知っており、自分の葬儀の段取りが「ヤリタイ」に委ねられるよう仕組んだように思える。オフ会を楽しみにしているチャットの中だけの知り合いのようだったが、実はシタイは皆のことを知っているようだ。どのようにして知りえたのか。自分はそのシーンを見逃したのか、気になるところ。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2019/06/09 01:36

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