いつもの致死量 公演情報 こわっぱちゃん家「いつもの致死量」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/04/27 (土) 14:00

    端的に言うと「愛と優しさにあふれた演劇」でした。
    ネタバレ満載なので、ネタバレboxにて。

    ネタバレBOX

    観劇のきっかけは「降っただけで雨」の演技が印象的だった森谷
    菜緒子さんが出演されていたから。
    今回でご卒業とのことで寂しくも今後の飛躍を大いに願ったり。

    チケットを予約していた時点ではフライヤーは出来ていなかった
    気がするけど、タイトルが何といってもキャッチー。
    本でも映画でも音楽でもわりとタイトルだけで選んじゃうくらい
    タイトルマニアなので、そういう意味でも期待しながら観劇。

    場所は以前行ったことのある王子小劇場だったので、なんとなく
    場内の雰囲気をイメージしていったのだけれど、入場してまずは
    その舞台セットにびっくり。
    ありとあらゆるスペースを徹底的に利用し様々なセットが配置。
    観劇回数5回程度の初心者だけど、これがすごいことだということは
    何となくわかった(笑)。

    映像作品であれば、場面の切り替えなんぞひどく容易なんだろうけど、
    舞台、しかも、小劇場という限られたスペースでそれを実現するのは
    至難だと思う。
    だから自分がこれまで見てきた演劇(小劇場以外で観たことないです)
    は、セットが一つで、物語はそこを軸に進められていたし、それが当然と
    思っていた。
    ところが既に目の前には5つのセットが用意。
    あぁ、なるほど、こういう見せ方もあるんだとちょっと感動。
    小劇場ゆえの制限の中で、どうやって場を演出するかも、小劇場ならではの
    面白さなんだろうなと一人で納得。

    私は何よりチキンなので最前列で堂々と見るなどということは出来ないタチ。
    したがいまして入り口に近い最後列の端を選択。
    普通なら結構みづらい席だけど、今回の舞台セットではこれが大当たり。
    若干声は聞こえにくいものの(森谷さんの声は大きいのでよく聴こえる)、
    あちこちで展開される物語を見るには絶好のポジションだった。

    印象的だったのは開演前の来園者の誘導と気遣い。
    入り口に近いところにいたので、見るともなしにその様子を見ていたん
    だけど、とても親切丁寧、空調の温度まで気にされていて、あぁ、なんか
    素敵だなと思った。

    開演までの時間って単なる待ち時間かと思いきや、その演劇によって意外に
    違うもので、ほんとに単なる待ち時間のものもあれば、退屈させないように
    趣向を凝らしていたり、はたまた、実はすでに演劇の一部が始まっていたりも
    するんだけど、今回は単なる待ち時間。
    一番退屈なパターンであるにもかかわらず、全くそれを感じなかったのは、
    場内に満ち満ちた期待のオーラ。
    「今回は絶対に面白いに決まってるでしょ」
    なんか、そう言っているようなオーラで、すっかり自分もそれに呑まれた感じ。
    劇団、あるいは役者さんたちへの信頼に近いものも感じた。
    そのワクワク感が退屈を遠ざけてくれた。
    あんな経験は初めて。この時点で結構テンション上がる。

    さて本編はといえば、アプリゲーム「MCM」とそれに絡んだ様々な人たちの物語。
    立場も違えば、思想も違う。
    それぞれの思いが複雑にぶつかりあい・・・という感じなんだろうけど、実際のところ、
    そこまで激しいぶつかり合いはない。
    もっとも激しい自己主張をしてくるのは進藤だが、彼女も決して頑固一辺倒なわけではない。
    リアル社会にはもっとタチわるい連中はいくらでもいるし、娘を失った充も、頑なではあっても
    決して非理性的な行動には出ない。
    晴香や美羽という緩衝材的な存在があるにせよ、登場人物はみな、自身の思いを強く主張しつつも
    決してわからずやではなかった。

    要はみな大人なのである。
    「十人十色」であることを潜在的に理解し、そして人を傷つけることを望まない。
    それぞれがみな優しさと愛に満ちている。

    登場人物の個性というものをもっとどぎつくしようと思えば、あるいはリアルに
    はびこるわからず屋どもを再現しようと思えば、いくらでもできたと思う。
    それをやらなかった理由は、それこそ脚本を書いた本人のみぞ知ることだけれど、少なくとも
    自分は、明確な個性というものを登場人物に与えつつも、同時に彼らに「他者への愛」を与えた
    その設定は非常に心地よく、どこか安心して終始、観ることができた。
    書いた人の優しさがにじみ出る、そんな演劇であったと思う。

    この演目を端的に表現するなら「愛と優しさにあふれた演劇」だろうか。
    「いつもの致死量」という、どこかスリリングで抜群のセンスを内包したタイトルは、
    観る前にはある種の痛みを伴う劇であろうという覚悟はしていたが、自分としては
    決してそんなことはなく、とにかく優しさに満ちた劇であったと思う。

    脚本を書いたトクダ氏の終演後の丁寧な挨拶を聞いて、あぁ、なるほど、この人だからこそ、
    こういう劇がかけたんだなと納得。
    この方が書く演劇というものをこれから先も、もっともっと見続けて行きたいと思った。

    終演後のアンケートで気になる役者さんは?という項目もあったが、これはあまりにも
    野暮というものでしょう。
    選べませんって。
    あなたの描いたキャラクタはみな素晴らしく魅力的で、愛と優しさに満ちている。
    どうしても選べというなら全員。
    本当にそう思える素晴らしい演劇だった。

    演出的なことで言えば、同時多発的に舞台のあちこちで展開する物語の見せ方は
    ほんとうにすごいと思った。
    何というかちょっとアメコミでよく見かけるコマ割をちょっと連想させた。

    印象に残っているシーンはいくつもあるけど、本筋の見せ場としてはやはり
    ルイージのくだりだろうか。
    本人にしかわからない理由があるからこそ、その人の行動を否定してはならない
    ということは、至極当たり前のことではあるけれど、だからこそ、忘れがちで
    思い当たる節がある自分としては、ハッとなる瞬間でもあった。

    少し外れたところで印象に残っているのは、なんといっても木ノ下と須田の
    終盤のやり取り。
    木ノ下は間違いなく全編通じて一番の愛され男。
    彼らのシーンになると、終盤は場内が一気に和んだ。

    素晴らしい演劇でした。
    DVD化されるなら観たいし、買うと思うけど、やっぱりこれは
    劇場で観たい。
    そんな作品でありました。

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    2019/04/30 07:48

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