陽だまりの中で 公演情報 林家畳「陽だまりの中で」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    グリーンフェスタ2019参加作品。
    実話を基に紡いだヒューマンドラマ。物語は平成時代から昭和時代へ遡り、基本的にはその時代での時間軸で順々に進む。その意味では分かり易い展開で、観劇歴が短い人でも十分楽しめる公演である。
    全体的には人情物語であるが、ときどき享楽的な場面を入れ笑いを誘っている。どうにか笑いを取り入れたいのかもしれないが、流れとしては不自然または違和感のようなものを持ってしまう。

    ネタバレBOX

    舞台セットが素晴らしく、ある地方都市の街角を出現させている。もちろん中心はスナック「新月」店内。上手側にはカウンター、そこにピンク電話。ほぼ中央に赤いBoxシート席、ボトル棚など調度品を設えている。下手側には後景2層部への階段や街路樹などが見える。一目で物語の設定空間へ誘われる。
    また音響効果は、場面転換時に当時の流行歌などが流れ、ある年齢以上の観客には懐かしかったと思う。もちろん若い人にも聞き覚えがあるかもしれず、観客の心を掴んで集中力を逸らさない工夫は良かった。また劇中カラオケで歌うなど、雰囲気を盛り上げる。また音量で店内・外の区別、例えば鳥の囀りなど細かい配慮をしている。

    梗概…蕎麦屋「新月亭」の店主が開店準備をするところから物語は始まる。暗転後、店主が高校生の時代に遡り、店もスナック「新月」に変わる。時代設定は流れる歌謡曲から”昭和”と思われる。母と高校生の息子の2人暮らし。母はスナック「新月」を営み生計を立てているが、息子は水商売を快く思っていない。高校生という思春期の反抗、何かにつけて母の行うことが気に食わない。一方、母はそんな息子を温かく見守る。特に父親がいないという負い目を持たせないよう気遣う姿が印象的である。スナックには近所の常連客や歌手志望の女、さらにはヤクザのような男が出入りする。その意味で、このスナック「新月」という場所も重要な位置を占める。
    サラリーマンの他愛ない話、息子の同級生との戯れ・喧嘩・淡い恋心、歌手志望の女の悲哀、ヤクザ男の金取り立てなど、脈略なく展開されるが、そこに日々の暮らしのリアリティが表され、自然な時間の流れを感じる。ラストは父不在の理由や母の思いが手紙という形で明かされ、愛情の深さに心が揺さぶられる。

    演出は、場内に入った途端、既にスナック「新月」の店内を思わせるほどしっかり作り込んでいる。BIG TREE THEATERの特長である高さを活かし、後景に街路を思わせる横長空間を作り出す。一方、店前(客席側)にも通路を設けているが、この2つの道は異空間であり、その間にある店を置くことで“街”を演出している。それゆえ、店に出入りする人々が顔見知りで会話に弾みが生まれ、生き活きとした人間活劇になっている。場面転換には当時の流行歌を流すなど観客の気を引き付けておく工夫をしている。全体的に丁寧な作りをしている。冒頭とラストが現在を現しているが、それは全体の中のほんの数分で、ほとんどは遡った時代の中で順々と時間が経過していくため、素直に展開を観ることが出来ることから感情移入がし易い。

    演技は、登場人物の性格付けがしっかりされ、その役柄にあった心情表現は上手い。コミカルな演技、情感あふれる演技など、人の喜怒哀楽という感情が場面に応じてメリハリを付け際立たせる。観客からすれば、芝居と分かって一歩引いた目線で観ているはずが、いつの間にか演技+演出と相まって感情(心)を引っ張り込む”力”があった。もちろん役者の演技力のバランスもよい。

    演出面であろうが、馴染めなかった場面を記しておく。
    鞭等を用いた享楽的シーンは必要であったのか。展開の中では異質であり、流れが停滞したかのように感じる。またラストにも、風俗店の出店や店長になったなどの台詞が飛び出す。なぜ緩い笑いが必要だったのか疑問が残る。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/04/29 23:50

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