演出は、場内に入った途端、既にスナック「新月」の店内を思わせるほどしっかり作り込んでいる。BIG TREE THEATERの特長である高さを活かし、後景に街路を思わせる横長空間を作り出す。一方、店前(客席側)にも通路を設けているが、この2つの道は異空間であり、その間にある店を置くことで“街”を演出している。それゆえ、店に出入りする人々が顔見知りで会話に弾みが生まれ、生き活きとした人間活劇になっている。場面転換には当時の流行歌を流すなど観客の気を引き付けておく工夫をしている。全体的に丁寧な作りをしている。冒頭とラストが現在を現しているが、それは全体の中のほんの数分で、ほとんどは遡った時代の中で順々と時間が経過していくため、素直に展開を観ることが出来ることから感情移入がし易い。