満足度★★★
淡々と死を待つ老人を見事に現前させた枯れた芝居。89歳の吉永仁郎の作・演出と、85歳の水谷貞雄が、79歳の死去直前の永井荷風を描いたのだから、枯れた老人芝居であることは、狙い通りの成功と言えるだろう。70分休憩15分65分の計2時間半
若いカメラマンが、かつての反骨の精神も加齢とともに弱まった荷風を批判するところで、活気付く。戦時中に菊池寛の挨拶絵お断り、芸術院会員も蹴った反骨ぶりも良かった。
同時に、昔の恋人のウタにも、濹東綺譚のモデルのユキにも、荷風が結局は冷たく去っていくところに、荷風の根っこにある冷淡さを感じた。その人生態度は、戦争にも反戦にも熱くならず、世を冷笑して過ごした覚めた姿勢と共通するだろう。
水谷の、スローな動作と、しわがれた台詞回しの、枯れぶりがうまかった。しかも、永井荷風によく似ていた。背広に下駄履きの冒頭から、似てると実感。それにしても、なぜ背広に下駄だったんだろうか。