満足度★★★★
「合邦」は木下歌舞伎でも手に余るだろうと思っていた。
日本の伝承に根付いているとか、江戸武家社会の倫理劇の古典とかいうが、物語はいかにも無理筋である。解説で見どころを教えてくれるも歌舞伎で、名演と言われていた歌右衛門の玉手を歳を置いて二度見ても、なんとなく納得できない。
それが、この木ノ下歌舞伎の合邦は、まるで、東宝ミュージカルのように、やさしく面白く腑に落ちた。
長く複雑な原作から、玉手御前の生涯に絞って、親子の情と、羽曳野を生かして武家の家の妻の座の筋を通したのが成功した。現代にも通じる人間家族の話と、お家の社会の話である。焦点が決まれば、脚本、演出、振り付け、ほとんど完璧である。
玉手の親との過去を庵室でフラッシュバックのように見せるところとか、大きな玉(大きさも色も秀逸)を舞台に上げて振付に使うところ、虎の因果をさりげなく前半で振っているところなど、俗に言えば,しびれるうまさだ。出道具がいいのは木下歌舞伎の特色だが今回もホントに道具の出し方、下げ方がうまい。
難を言えば、音楽はわかりやすい(現代語や外国語が詞に入りすぎているという意見はあるだろうが)が、俳優たちの歌唱力が追い付かない。独唱だと言ってることがわかるが、斉唱になるともういけない。歌詞がほとんど内容を追っていないだけに、歌になるたびに舞台から気がそがれる。ことに幕開きの長い歌のシーンは、正直、これで大丈夫かと心配になった。歌のうまい華のある役者で見たいと、熱演の俳優たちには申し訳ないが思ってしまう。初日なのに、満席。追加公演もすでに売り切れと言うが、お富与三郎だってコクーン歌舞伎になったのだから、これもクリエで座組みを変えて再演、などという大胆な企画も、たまには東宝もやってみたら? 2時間20分休憩なし。