満足度★★★★★
鑑賞日2019/02/21 (木) 14:00
2019.2.21㈭ PM14:00 新宿村LIVE
うらうらと暖かな昼下がり、新宿村LIVEに、REONさんが出演されるLIVEDOG『女優たちのための冬の夜の夢』を観る為に足を運んだ。
劇場に入り、チケットに示された最前列真ん中の席に着くと、目の前には、屏風のような壁にレースの貼り絵を施したような真っ白な木立ちとその前に白い靄で覆ったような白い3段程のひな壇、舞台の左右に、太く枝先が羊の角のように丸まった真っ白なレースの貼り絵のような木。舞台装置はそれだけ。
妖精の女王ティターニアが、インドの美しい少年を引き取り自分のお小姓として片時も離さずそばに置いていると聞いた、夫の妖精の王オーベロンが、そのお小姓の美しさに執心し、妻ティターニアに、下げ渡すように言うも拒絶されたことから、妖精界を二つに分けるような夫婦喧嘩を繰り広げている所に、二人の統べる森に迷い込んだ、相思相愛のながらハーミアの父に結婚を反対され駆け落ちしようとしているハーミアとラインサンダー、ハーミアに横恋慕するディミトーリアスとそのディミトーリアスに想いを寄せるヘレナの二組の人間と妖精たちが森で巻き起こす恋の騒動を描いたシェイクスピアの祝祭的喜劇『夏の夜の夢』を原作に置き、就職活動に打ちひしがれ、厳しい現実を感じていた夢子が、『夏の夜の夢』の公演に向け女子演劇カンパニーの冬合宿に参加し、夜の森での稽古中、森に霧が立ち込め、姿を変えた森が部員たちを夢の中へと誘ってゆく所から始まる、夢か、舞台か、現実か、境目のない不思議な冬の夜の夢の世界へ誘われ、夢子は、いつしか失っていた「生きる喜び」を思い出してゆくという、かつて少女だった大人たちへ送る、歌とダンスとロマンスが織り成す物語へ誘(いざな)われる。
男女で演じられるこのシェイクスピアの戯曲を、女優だけで演じるからタイトルが夏の夜の夢ではなく冬の夜の夢、シェイクスピアが男の目線で『夏の夜の夢』を書いたとするなら、『女優たちのための冬の夜の夢』は、女の目線で描かれているのではないだろうか?
シェイクスピアの原作の『夏の夜の夢』を忠実に踏襲し描きながらもそこに、現代を違和感なく自然に持ち込み、溶け込ませシェイクスピアの時代と現代、シェイクスピアの創り出す夢と現代の夢子の現実とが融合し、境目のない夢を観客は観る。
夢子が(佐々木七海さん)演じるはパック、夢子はパックと夢子を行き来しながら、夢子はパックを演じ、パックが夢子の中で蠢き、夢子が夢を追いかける限り解けない魔法をかけたかも知れない魔法で、夢子は生きる喜びを見出したのではなかったろうか。
この舞台を観たいと思ったのは、REONさんがオーベロンを演じると聞き、REONさんにオーベロンはピッタリ、絶対に面白い舞台に違いないと思って観たら、創造を更に上回る面白さだった。
REONさんのオーベロンは、妖精の王としては堂々とした押し出しなのに、インドの美しいお小姓を巡る争いでは、駄々っ子のような子供っぽさと、妻に頭が上がらない夫の片鱗が見え隠れしつつ、時にさっそうと夜の森に吹く5月の風のような色香を漂わせるオーベロンそのまま。
門田紗苗さんのティターニアは、妖精の女王としての気品はありながら、オーベロンとの仲違いでは、子供のような利かん気とオーベロンの成すことに呆れる母のような心持ちを仄かに漂わせながら、艶やかさもあり、最後にオーベロンと仲直りをした時に見せる睦まじさに、本当はオーベロンをこよなく愛おしく思っているのが垣間見え、可愛らしい女性の一面が好ましく感じた。
そしてそれはまた、オーベロンにしても、妻ティターニアに対して抱いている愛でもあるのではないか。
REONさんのオーベロン、門田紗苗さんのティターニアが、とてもイメージにピッタリで好み。
夢のように不思議で美しく、110分間笑いっぱなしで、観終わった後、清々しい幸福感に包まれた舞台。
シェイクスピアの『夏の夜の夢』もきちんと描かれていながら、オリジナルのコミカルな台詞や動きがおふざけにならない、心地の良い軽みのある面白さになっていて観ていて気持ちの良い幸福感に満たされた舞台だった。
文:麻美 雪