満足度★★★★
キャバレー演劇の趣向でブレヒトを見せる。串田和美らしい演出で、本人もお気に入りの道化語り手の役を楽しそうに、一方では周囲に厳しい目線を送りながら演じている。2時間。
ブレヒト作品の中でもあまり上演されない演目のようで、多分初見。
舞台は幕を引いただけの見世物小屋風、前に10ほどのテーブルが置かれ、客が二三名づつブランチを食べている。客席はその後ろで階段状で250位か。客席には拍手用とブーイング用の玩具が渡され、開演前には予行演習までやる。最近はやりの観客参加型を志向している。バンドが3人。これが芝居につかず離れずでいい。
串田の口上で幕が開くと、コック姿の役者たちのダンス、中から安蘭が出てきて歌う、オンシアター以来の手慣れた演芸会風舞台である。だが、今回の舞台は英国植民地時代のインド。駐留地の英国兵のグループ(昔で言えば「分隊」か)から脱走兵が出て、分隊の仲間のメンバーが、旅団がアジアの奥の聖地に向けて進軍を始めるまでに見つけ出そうと、さまざま手を尽くす、という馴染みのない話である。象が出てきても、地元風俗がエキゾチックでも、ここが辛い。舞台では客席にしきりに乗れ!とけしかけるが、なかなか飯食いながらの客席の温度が上がらない。仕込みなのか一部だけが盛り上がる。しらけ気分で見ているうちに、おや、これ、どこかで見たな、という気になった。横浜からの長い帰りの電車の中で、思い出した。地点が数年前にやった「ファッツアー」である。同じブレヒトだが、追い詰められた軍隊の閉塞状況は同じ。表現方法は随分違う。真逆と言ってもいい。どちらも出来てしまうところがブレヒトの融通無碍なところで、ここでその議論をすればきりがないから止めるが、専門家はこの機会に、それをネタに啓蒙してもらいたいものだ。
串田、安蘭、以外はおもに松本在住の俳優が出ているが、舞台経験が少ないので、声の出し方が揃わない。マイクの使い方も習熟していない。台詞にリズムが生まれない、ブレヒトの寓話性が表現できない。現在の舞台芸術の基礎になる俳優訓練も重要な課題だと思った。ここを地方だから仕方がないと放っておくと、止まってしまう。ここへ来るまで串田はかなりの年月を松本で費やしてきた。オンシアターを客席80からコクーンまで引き上げた力量をここでも見せてほしいものだ。