顕れ ~女神イニイエの涙~ 公演情報 SPAC-静岡県舞台芸術センター / コリーヌ国立劇場「顕れ ~女神イニイエの涙~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    度々出かけているSPACだが、宮城聰演出舞台で観たのは「野田版 真夏の夜の夢」「寿歌」くらい。今回の作品は大航海時代の奴隷貿易を題材とした珍しい舞台で、フランス在住カメルーン人女性が書いて宮城氏に演出を指名した事で実現した。初演は仏パリ郊外にあるコリーヌ劇場(SPAC俳優が出演)。
    寓話的舞台。イニイエとはアフリカ神話の創造神(男女ある内の女神)で、世界に君臨するこの役のみプレイヤー(美加里)とスピーカー(鈴木陽代)の様式で演じられ、舞台の奥、時に前と、常に舞台上に居る。地上の世界はこの劇には現われないが、言及されるのは地上世界の歴史、それも奴隷貿易時代にヨーロッパの商人たちへ奴隷を売り渡したアフリカ人のことだ。彼らは「千年の罪びと」として灰色の谷に数百年閉じ込められている。他に登場するのは「始まりの大地」に生まれる赤子たちに飛ばされる魂=ムイブイエ(だったか)、彷徨える魂=イブントゥ(だったか)。大西洋の藻屑となった奴隷たち、故郷へ帰れなかった奴隷たちの魂が未だ弔われる事なく彷徨っている事を知り、魂たちは地上へ向かうのを拒み始めたため、その原因に深くかかわる「千年の罪びと」たちを禁を破ってでも呼び寄せ、その証言を聞かせてほしいと要求してきた・・・という経緯がイニイエの部下に当たるカルンガ(だったか)に彼らを谷連れ出すよう命ずる理由として冒頭説明される。
    冥界での時間はゆっくりと、威厳をもって儀式のように流れる。棚川氏の音楽がリズミカルに、緩急激しく鼓動するのと対照的だ。「上空」には巨大な円が二つ浮かび、当初は照明により手前が闇、奥が光を受け、自分の席からはちょうど三分の二ほど欠けた月と見えるが、気づかぬ内に形は変わり、手前の円は縦を向き、さらに時間を経て両方とも縦に並ぶ。最後はまた円形を見せている。数百年という人類が刻んだ一定の「時間」が、この天上世界によって支配されたものであるというイメージは、人類の悲劇をもある種の冷厳さをもってわが事として眺めている、その隠喩をいつしか伝える。罪びとそれぞれの証言が終わり、終幕、女神が高らかに申し渡しを行う。ゆっくりとまた闇が訪れる。
    囃し方が静まって衣擦れの音とともに立ち去る、能の終いに重なるイメージは意図的なのだろう。だがこの舞台は鎮魂を含めて現在の人間の営みは未来に差し出されている事を思い出させる。

    0

    2019/01/22 06:13

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大