ヒバカリ 公演情報 電光石火一発座「ヒバカリ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2018/05/13 (日)

    痺れた…尋常じゃないほどグッときた。前半の緩い雰囲気から一転してのヒリヒリする空気、さりげない仕草の演技、撒き散らされる毒…そして周りの案じる気遣いの深さ。あぁ、みんながヒバカリだったんだねぇ。電光の株がまた上がりました。収穫多し。幸せ満喫。

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    ネタバレBOX

    【続き】

    前半、延々と続く店員の雑談。一切の芝居っけが感じられない日常会話。
    これは青年団の冒険王を観た時の感覚に似てる。かといって群像劇として描かれているわけでもない気がする。
    でも…この時間は…後に展開する売上金盗難(紛失)事件の単なる前振りにしては…とても長く、登場する12人もの店員の人となりを感じさせていくため…にしても、何かそれに留まらない深い意図を感じずにはいられない。

    「事件」を後半の核に置きながらも、本作は明らかにミステリーやサスペンスが主体ではないよね。
    だから、単に容疑者を増やすフリであるはずもない。何となく 「社会の縮図」を丹念に形作ろうとしていたのか…と想像する。

    先入観や安易な思い込み。無自覚で容赦ない他人への踏み込み。自分の狭い知識と限定された経験のみに基づく…一方的で危うい判断の蔓延。…言葉の印象に大きく反し…決して一般化されない「普通」の指す意味。ここら辺、夜勤メンバーの安易さ、昼勤おばちゃんの善意に溢れる傍若無人さ、小島由利の唐突な犯人断定…等が積み重ねる空気は…何となく反面教師的に胸につかえるモノを作っていく。

    無毒種にもかかわらず、毒蛇と見做され「噛まれたら命がその日ばかり」と考えられていたヒバカリ。
    毒を持っていなくても、不意に毒を持っていることにされかれない…レッテル付けの激しい世の中。
    登場人物の皆が「ヒバカリ」の一面を担わされた。

    やはり一番印象的だったのは、根拠希薄なまま「濱地」を犯人扱いし続ける「君島」の描写。これが他の人たちによる「無責任な決めつけ」とは、少々意味合いが異なっているのが深い。
    濱地の趣味に酷似する「変態野郎」に息子を殺害された経験を持つ君島に…当時、警察をはじめとした周囲が与えた「その死の理由」は…「こういう人だから…」

    「(犯人が)こういう人(殺人・死体愛好家)だから… (しょうがない? 避けられない?)」

    不運で片づけるにはあまりにも壮絶… 外に締め出した自分を責めようにも…あまりにもバランスがとれない代償。

    落しどころのない…根拠希薄…いや根拠皆無なまま…最悪の現実を受け容れざるを得なかった君島にとって、「こんなヤツは…何をやってもおかしくない。」は…唯一すがれる真理だったのかもしれない。…周りの人が口を揃えて言う「君島らしくない」という表現が…死体写真が彼女にもたらしたフラッシュバックの激しさを窺わせた。

    一転、この空気から突如飛び出した川島のプロポーズは、この作品の2大ビックリのうちの1つ(笑)で… 川島がどれだけマジで…どれだけ天然か分からないけど、作品の空気の転換という意味でも、他のネタでは成し得なかった飛び道具っぷりに唸る。ここの川島と君島の会話はほんと好き。

    そして…これ程のやりとりを前座に据え… ラストを飾る…「源島」と「清水」の息詰まる時間。

    前半では清水のモラトリアムからの脱却を諭した源島の…対照的な罪の告白。

    ​なぜやってしまったのか自分でも分からなくなった…まるで身体を乗っ取られた自分を…殺して…とでも訴える様な…清水に救いを求める…源島の「悲痛な声」が非常に耳に残る。…そしてたっぷり時間を使った…長い沈黙が始まる。

    安易な…感情に流された情けではなく、真に彼女のことを考え抜いたと思わせる…この長い間が本当に良かった。セリフに依存しない胸に迫る時間。
    しかも…自分で電話させる決断からの暗転・終幕に痺れた。

    正直…台本から この空気はちょっとやそっとじゃ読み取れない。セリフだけみると…驚くほどあっさりしている。このシーンを作り上げるのに、どれだけの時間と手間を掛けたのだろうか… 演出と演技の作り込みの労力を改めて感じて、びっくりした。…

    稽古ツイートなんか見てると、ヒバカリの稽古は「戦いの時間」であるかの様に伝わってきていたから…さもありなんの出来ですねぇ。

    だんだん余談になってくるけど、台本を読んで驚いたのだが、気に入ったセリフやカットが…結構台本には載っていない…。稽古して、演出が固まっていく過程で色々積み上げられていくのかと感心。

    松方店長が警察への通報を嫌がった…彼の背景を窺わせる「警察はいやだ」というセリフ。10万円が出てきた後に…全てを察して漏らした「今度、飲みに行こうか…」というセリフ。…そう言えば、松方店長が濱地の見識を誉めるシーンも無かった… あれ?、みんな碓井さんのセリフじゃん。碓井さんの仕業?

    あ、さっき言った2大ビックリのうちのもう1つは、田島の封筒から出てきた20円ね笑。冒頭のネタは完全に忘れてた、やられたわ。…彼は…その境遇よりも「発達障害」を思わせるリアクションの数々が印象的で、彼の苦しみをもっと掘り下げても良かったぐらいなんだけど、まずは飛び道具としての役割を遺憾なく発揮されてて良かった。

    観劇後、帰り際の友人との会話で…「犯人を予見することが出来たか?」が話題になった。でも「彼女に嫌疑の順番が回ってきた時、おばちゃん達が一瞬で否定して話が終わった…」、「…ああ、ここでもおばちゃんズは機能していたのか… その為の傍若無人さであったのかも…」ってなった。

    一方で、源島のラストに至るまでの心境は結構 謎で、事後に清水に説教までしていることになる訳だから、この時点ではラストの心境からは遠いところにいるはず。彼女は…何を想いながら、この騒動で佇んでいたのか。小島の「そういうの全部いいよって…言ってくれる人、いたらいいな」だけで突如目覚めたはずもない… 彼女の心理の動きは非常に興味深い。

    もう一度、源島に注目しながら観返したい…って思っても、できないのが演劇。「のこりび」で初DVD化した電光さんだけど、「ヒバカリ」はどうなるだろね。

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    2019/01/04 13:48

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