満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/07 (金) 18:30
座席1階
この作品は、劇団民藝の魂を受け継ぐ名作だ。タイトルのグレイクリスマスは、白い雪が何もかも隠してしまう美しいホワイトクリスマスでなく、汚いものを隠すものがない雪の降らぬクリスマスという意味。何と示唆に富む一言。この舞台の底流にどっしりと構え、観るものの心に突き刺さる。
民藝の舞台は、前作の「時を接ぐ」に次いで歴史を見つめ直す作品。連続ヒットの仕上がりだ。
二度と戦争はしない。ピープル、国民に主権がある。占領軍民政部が心を砕いた日本国憲法だが、憲法は単なる言葉なのであって魂を吹き込み続けるのはピープル、国民次第なのだ、と。今この名作を再演する意味はここにあるのだろうが、私はこの舞台が描く人間のしたたかさ、あざとさ、悔しさという部分に惹かれた。
屋敷を接収され、生きる能力のない当主。その没落ぶりが面白く描かれる。米将校のホステス役を買って出るお嬢様たちの生命力はなかなかだ。限界を生きる姿は、今の平和に慣れた体にカツを入れる。
秀逸なのは、元男闘呼組の岡本健一だ。伯爵家に巣食ってうまく立ち回る在日朝鮮人の役だが、ナレーションも含めた舞台回しの役割を見事にこなした。
タイトル通り、毎年のクリスマスに舞台設定した脚本は歯切れがいい。「この演目だけは自分がやりたかった」と言ったという丹野郁弓の演出も良かった。