満足度★★★★
十年ぶりの再演の脚本演出は、和田憲明。小劇場からスタートして、20年劇団をやった後、今はプロデュース公演で成果を上げている(野木のパラドックス定数初演の何作かを、小劇場中心のキャストで作り直した作品は、どれも目先につられやすい元劇団の及ばないところを埋めた。基本の舞台設計がしっかりしているので、たいていのことには対応できる良い演出家だ)
今回も、内容はほとんど原作によりながら、原作の他のエピソードからいいとこどりをして、内容を膨らませている。その選択が非常にうまい。ことに中段とラスト。正面の壁を開けてそこをハイライトで見せるのは定番と言えば定番なのだが、そこへ行くまでが周到に設計されていて、雨の中に立つ藤田も、幕切れの青空の中の死神も、観客の心をとらえるいいシーンになっている。
この作品では、死神がミュージックが好きと言う設定になっていて、二人の調査員が、それぞれに音楽に没入している面白いシーンがあるのだが、そういうところも丁寧に配慮されている。惜しむらくは、今回は劇場の音声ミキシングが雑で(はっきり言えばド下手で)かなり感興をそいだが、それでもいくつかのシーンは、この死の物語のいい癒しになっている。
俳優も物足りない。ことに阿久津を演じた上田圭輔は、初演が初めてストレートプレイに挑んだ中川晃教だったから、比べられては苦戦だろうが、まずは台詞を聞こえるように言うことから始めて、この滅多に出会えない稀有な現代性のあるおいしい役に挑んでほしい。ラサールはやはり歳をとったなぁと感じる。こういうのは残酷だが、多分初演の時はやくざ者のギラつく感じが地で出せていたと思う。萩原は、浮世離れしているところが役にあっている。
たちまちソールドアウトになった初演はかなり遠い目標だが、まだまだ先は長い。このいい脚本を生かして、俳優たちの息があってくるのを期待している。