蒲田行進曲 公演情報 ふれいやプロジェクト「蒲田行進曲」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    映画にもなった「蒲田行進曲」は、今の時期にピッタリ合うような応援歌。つかこうへい作品らしい「言葉(台詞)と音響そして肉体」をもって物語の世界へ導く。本公演はさらに照明の印象付(雨の表現など)を意識し小道具の傘をもって抒情豊かに紡いでいく。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    セットは素舞台。
    物語は、京都の撮影所、映画スターの倉岡銀四郎・通称:銀ちゃん(丸山厚人サン)が妊娠させた恋人水原小夏(倉地裕衣サン)を大部屋俳優の村岡安次・通称・ヤス(關根史明サン)に押し付ける。ヤスは小夏を受け入れ、どんなに無視、無理難題を言われ、足蹴にされても銀ちゃんに付いていく。一方小夏は銀ちゃんのことが忘れられず、しかしヤスの優しさと子供の将来を考えると、今のヤスとの生活も大事にしたいという複雑な気持ち。銀ちゃんは小夏をヤスに押し付けたが寄りを戻そうと…。

    3者三様の思いが痛いほど伝わる情景描写は見事であった。それは「愛」と「情」という感情が混在しているようだ。自分が傷つく、一種の自虐行為に笑いを含ませる。人の本心の見え隠れ=照れ隠しが笑いと同時に哀切を帯びて見える。心情形成と同時に照明による情景描写も秀逸であった。例えば暗幕で囲った舞台、登場人物への照明諧調することで内面を、また玉模様の陰影で雨などの情景を描く。そして透明なビニール傘の照明反射効果など演出効果を計算していたようだ。もちろん「階段落ち」も見事に観(魅)せてくれた。

    素舞台だけに役者の力量が試される。主要な役柄は先の3人、その感情表現が作品の良し悪しに直結すると言っても過言ではない。本作では”決め”と”容赦ない”台詞の熱量と情感、その両方とも感じ取れた。そこには差別的な情景・状況を映し出す背景がしっかり刻み込まれている。大スターと大部屋役者にある差、そこには人間である前に役者(立場)という芸事が優先する。だからヤスは銀ちゃんの言うことは何でも聞き入れる。もっとも人間的な魅力も感じてはいるが…。

    差別される人々を自虐的な笑いに包み、彼らが懸命に生きている姿を描く。4月に社会人になり、ようやく生活や仕事に慣れた頃。何者でもない自分が社会で何をなせるのか。希望と不安が表裏一体。しかし自らの手と足でしっかり自分の場所を築く、つかこうへい作品全体に言えることだが、特にこの時期、何者でもない新社会人に相応しい応援歌のように思えた作品である。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2018/07/06 16:53

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