あたみ殺人事件 公演情報 獏天「あたみ殺人事件」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「熱海殺人事件」(つかこうへい作)は多くの劇団で上演しており、特徴を持たせないと陳腐化して見えてしまう。本公演(脚色・演出 イデヨシフサ氏)では配役を男女逆にするという試みだ。発想的には面白いが、それを表層的な観せ方だけではなく、内容にその特長をどう落とし込むか。そのことによって独自性が生まれると思うのだが…。
    (上演時間1時間45分) 【アマゾネス編】

    ネタバレBOX

    セットは大きな両袖机。その上に黒電話や調書が置かれている。冒頭は大音量で流れる「白鳥の湖」のBGM、そして受話器を握り大声で喋っている木村伝兵衛カトリーヌ部長刑事(木許舞由サン)の立ち姿はお馴染みのもの。あたみのシーンは2階部や取り付階段で演じるなど工夫を凝らしている。

    物語は警視庁の木村部長刑事が あたみの殺人事件の概要をなぞりながら、その過程で事件の底流にある社会問題を抉るものと思っていたが、その場景は弱い。つかこうへい のペンネームの由来と言われている”い つか公平 にを”意識させる描き方が弱く、物語に深みのようなものが感じられなかった。
    原作は在日への人種差別への思い、故郷を追われた慟哭。また性への偏見差別、職業・職場、社会進出における男女差別、権力至上への揶揄など、色々な問題・課題を浮き彫りにしていた。一方、人が感じ持つ優しさ、哀しさ、孤独などの人間讃歌とも受け取れるシーンの数々。容疑者を一流に仕立て上げることで、事件の底流にある本質を炙り出すという醍醐味があった。

    確かに先に記したようなオープニングシーンや、新任刑事に渡す書類を床にわざと落とし、木村が「拾ってください」という台詞、木村が成長した犯人を花束で何度も打ち据えるシーンなど、この作品の名物となっている部分は取り入れており、表面的には面白い。

    つかこうへい の思いは、やはり役者の演技力という体現なしでは伝わらない。特に主人公の木村部長刑事の力強く凛とした姿と愛嬌ある仕草、富山県警から派遣されてきた熊田留刑事(吉留明日香サン)の野望と哀切、そして木村部長刑事の男娼的存在の水野朋和刑事(汐谷恭一サン)との遣り取り。容疑者・大山金子(林彬サン)の哀歓。役者は熱演であるが、その人物像が抱えている人間的な深み、さらにはその人々が直面している社会情景・状況、そこに内在する問題や課題が描けていない。それが人物に反映出来ていないことが人間的魅力の欠如になっていると思う。
    表層的な観せ方も大切でその試みは十分伝わるが、原作の意を表した脚本、それがもう少し反映された脚色になっていれば…。

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    2018/06/03 09:05

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