満足度★★★★
主役の田中哲司さんはいつもの安定感で、傲慢だが自信のない死刑執行人を演じます。そして秋山奈津子さんを始めとするベテラン勢がしっかりと脇を固め、その中に混じって18歳の富田望生(みう)ちゃんが素晴らしく良い味を出していました。
原作者のマーティン・マクドナーは劇作家、脚本家、映画監督でブラックコメディの名手として知られています。昨年(日本では今年公開)彼が監督した映画「スリー・ビルボード」が注目を集めました。この舞台「ハングマン」は2015年ロンドン初演、日本語版は今回が初演です。
パンフレット(1200円)は読みどころが多く楽しめました。武蔵大学准教授の北村紗衣さんの『「ハングマン」観劇ガイド【前編】』では、この作品を観るときは、倫理観とかを忘れておかしなところでは冷たい心で笑いましょうといっています。この論説を参考に少しだけお話の背景などを書いておきます。
舞台は1965年のイギリス北部の片田舎、そこにハリー(田中)が妻のアリス(秋山)と開いているパブがある。パブもかなり盛況な時代。そのころロンドンなどの都市はビートルズに代表される若者文化で活気に溢れていた。娘のシャーリー(富田)はそんな都会に憧れて鬱々たる毎日。そのパブに集まるちょっとねじの緩んだ常連と突然やってきたよそ者が巻き起こすシュールでブラックなコメディ。
ちょうどイギリスで死刑が廃止になって、ハリーがこれまでの仕事についてインタビューを受けるところからメインの話は始まる。振り返ってみると冤罪であったかもしれない事件(冒頭で死刑執行)があって雲行きが怪しくなってくる…。
大傑作とかいうものではなく、達者な俳優さんたちによる芝居らしい芝居という感じがしました。十分5つ星に値すると思うのですが、この作品の世界観が5つ星を拒否するような感覚にとらわれたので4つ星に留めました。