満足度★★★★★
小川未明「港に着いた黒んぼ」は盲目で笛がうまい弟と、歌と踊りが得意な姉の二人のお話。
私はフラメンコというとパコ・デ・ルシアや沖仁のギターは聴くが踊りは映画でちらと見るだけである。したがってこの公演のメインである踊りについては何も語るものを持たない。期待していたギターも見せ場はなかった(もちろん快適なリズムを刻んでいたが)。それでは慣れないものを観て、経験値を積み上げるだけだったのかというとそうではない。
場内に響いた笛の音が私の心を鷲掴みにしたのである。音の主は篠笛の武田朋子さん。笛が割れてしまいそうな強く短い音からささやくような音まで自由自在である。踊りとの白熱のバトル、そしてソロ演奏と縦横無尽の大活躍であった。こういう思いもよらない出会いがあるので馴染みのないステージにも出かける価値がある。
それにこのお話のもう一つの要であるヴォーカルの中里眞央さんも素晴らしかった。若く柔らかく安定した歌声に癒された。それらを音楽監督でもある中島千絵さんのピアノ(とコーラス)ががっちりとバックアップしている。
1時間ちょっとの短いステージだったが音楽だけで十分に満足した。
観客の誰も拍手のタイミングを心得ていなかったのは残念だった。絶対何回かはあったと思うのだが、もしかするとフラメンコでは途中の拍手は無しなのか?