卒業式、実行 公演情報 Aga-risk Entertainment「卒業式、実行」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    『紅白旗合戦』のテーマ(卒業式の日の丸・君が代)が装いも新たに再登場なのだが、今作のほうがテンポもまとまりも良くとにかく面白い。
    ラスト(解決方法)は想像の範囲内だが、笑わせてラストまで一気に駆け抜ける。

    ネタバレBOX

    国府台高校という実在の高校が舞台で、その学校の校風が背骨にある。
    「卒業式における日の丸・君が代の扱い」がテーマで、生徒と学校側がバトルするという作品。
    ただし、「イデオロギーは少し脇に置いての、バトル」というところがミソ。

    日の丸・君が代の扱いについて、どうするのかきちんと決まらないまま(学校側も生徒側も「決まっている」とは主張するのだが)式当日になるという切迫感がいい。
    卒業式が進行しながら「日の丸を掲げる・掲げない」「君が代を歌う・歌わない」のバトルが続いていく。
    生徒と学校側だけでない、PTAや卒業生(この高校はこんな、母校への思い入れの強すぎる卒業生が多そうだ・笑)という第三者が邪魔をするように加わってくる様も面白い。

    学生時代、学校の行事に必死になりすぎるのはダサイと思っていた派なので、生徒会長の頑なさには少々イラ立ってしまった私(笑)。

    生徒側も学校側も「顔が立つ」ような「理由が付いた結果」に落ち着くことが最終的なゴールということはわかっているので、どう無理矢理にその体裁に押し込められるかがポイントになっていく。
    なので、「日の丸・君が代問題」の終着点(屁理屈点とも言う・笑)は見えている。だからそこまでのプロセスを楽しむ作品だ。

    卒業生代表の甲田がソレに気がつくか? が後半のポイントになってくるのだが、前半で察しの悪さ(ボタンの件)が伏線になっているので、「気がつかない」というもう一波乱あるかと思っていたが、あっさり気がついてしまったのが少し……。
    察しは悪いが、ヘンにところで気がつく、のような伏線にして「そこで気がつくのか!」のようなぐらいなほうが、バカバカしくてよかったかも、などと思ったり。
    ……アガリスクの恋愛はいつも「片思い+察しの悪さ」で成り立っているような(笑)。

    ラストに卒業式実行委員長の一段落感と、新たな火種の勃発感を入れたいのはわかるが、そこのテンポがイマイチ。
    ラストまで一気に来たのだから、一拍置いて、キレ良くストンと落としてほしかった。
    また「入学式」よりは、もっと切迫した問題、例えば「卒業式が終わって生徒が退場するときの退場方法」などという、すぐにでも対策を考えなければならないものが起きるなどのほうが良かったように思う。さらに屁理屈で対応しようという委員長の気持ちが見えたりするほうが面白かったのではないだろうか。


    作・演の冨坂友さんにとっては、母校である国府台高校に対する想いの強さは計り知れない。
    とは言え、それが強すぎて逆にちょっと気持ち悪いところまで行ってしまっている(失礼・笑)ようにも思える。
    国府台高モノとしてのテーマや題材は、たぶんまだ探せばあるのだろうが、基本は生徒の「自主・自律」的なラインから外れることがなさそうで、既視感が強くなりそうだ。
    ならば、今回の『卒業式、実行』で、国府台高モノもそろそろ卒業してはどうだろうか。

    ただし、「学生モノ・学校モノ」は別の切り口でまだ鉱脈があるかもしれない。
    だとすれば、取材して新たな切り口、新たな学校を舞台にして作劇するという手もあるだろう。


    『ナイゲン』がアガリスクエンターテイメントにとってのレパートリーになり(何度観ても面白い)、他団体や学校で上演されるような作品に仕上がっていることを考えると、この作品『卒業式、実行』もそうなる可能性があるように思える。

    「イデオロギーは少し脇に置いて」いるのだが、考えざるを得ないということがポイントでもある作品だからこそ面白い。

    「卒業式における日の丸・君が代の扱いで生徒と学校がバトルする」作品が、高校の演劇部で文化祭などで上演されるなんていう ことを考えると、少しわくわくする(中高の文化祭で数多く上演できるような仕掛けもアリかも。上演料無料とか。それによって未来の観客が増える可能性もあるし)。

    自主・自律をモットーとする学校は、国府台高校だけではないだろう。しかしモットーとして掲げていても学校側の要請&圧力で思うようにできていない学校もあるだろうと思う。
    甘いラストとは言え、こんなバトルを観て、演じて喝采を送る生徒たちもいるのではないだろうか。

    そのためには少しだけ整理したほうがようと思える個所がある。
    この作品で唯一イデオロギー(的なこと)に触れるのが、「PTAのおばちゃん」だ。
    彼女は、「国歌・国旗」を卒業式で扱ってほしくないという立場なのだが、原発についての発言などが「笑い」の対象として描かれてしまっている。それはちょっとどうなんだろうか、と思う。「反対している人たち=(困った)サヨクの人たち」という感じを受けてしまうからだ。それがアガリスクからのメッセージなら仕方ないが、そうでないだろうから、そのあたりは公平(バランス?)に扱うべきではないか。例えば、賛成派の「PTAのおじちゃん」が出てきてもいいのかもしれない(副会長のスピーチにそれが現れてきたりとか)。そこがすっきりするといいのではないか、と個人的には思っている。


    美術教師役の中田顕史郎さん最高! 焦り進む全体の勢いに抗うような佇まいが、笑いをヒートアップさせた。
    卒業式実行委員長役の榎並夕起さんが、キャラ濃い登場人物の中で見事に中心に立っていた。
    淺越岳人さんの屁理屈炸裂がなかったのが残念。

    式の当日のプログラムがきちんと2種観客に配られたのもいい。
    会場に入るときに配る係の人は高校の制服だったらなおよかったかも。

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    2018/03/12 06:27

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