アナウメ 公演情報 廃墟文藝部「アナウメ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    哀しい結末しか想像できない…非常に統一感のある空気作り。特に舞台美術、音楽、そしてアンサンブルキャストたちの声と動きによる「空気」の支配力の高さが非常に際立った。脇役と見られがちなモノたちによる…観客の心理を誘導する力強い影響力は見事でした。

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    ネタバレBOX

    (続き)

    舞台美術は抽象・具象の両面に利くシンプルな構成。円・四角・螺旋が空間の「枠」として配され、家・戸・窓枠・井戸を具現化しながら、各々が「穴」を想起させる。そして時としてその空間は演じる姿を変える。家が井戸の底に姿を変える瞬間は非常に印象的だった。

    アンサンブルキャストもまた具象抽象の両利きで、その都度姿を変える。野良猫・赤ん坊・内心・観察者…八方から代わる代わる響く声は、語りにリズムと重層感を与え、見事な擬態は観客の想像力を呼び起こす。ここまで効果的印象的なアンサンブルを観たのは初めて。

    そして音楽。観客心理を支配する最たるもので、元々いちろーさんの音楽は廃墟文藝部とは切っても切れない存在だが、今回は特にある種の感情を刷り込んでくる感覚。サントラを聴き返すとしっかり観劇時の気持ちが蘇るのがすごい。声の多用も人の惑いを象徴してた。

    私の感想が物語の解釈以外から入るのも珍しいけど、たとえこの物語の深淵を汲み取れなかったとしても、この空気に触れ…味わって生まれる印象と感情は、物語のどんな解釈よりも得難く、深い印象を残すものと思う。

    さて…でもやはり物語の感想に入っていこか。

    主題に謳われる「アナウメ」… 心の中にぽっかり空いた穴(喪失感、無力感、罪悪感、嫌悪感…)を…ある時は自分で…ある時は他者が埋める行為。

    それ自体にはあまり解釈が変わる余地は無い。
    問題は、そんなアナウメ行為の…動機、代償・見返りの有無、…相手の意図・内心との整合度合いだろう。

    アナウメが報われなかったり、アナを埋めているつもりが相手にとってはそこはアナでなかったり、逆効果だったり…相手のアナウメのつもりが実は自分のアナウメであったり(それが当たり前であるかもしれないが)、そんな行為と善意・愛情の「噛み合わなさの悲劇」を表す作品だった。

    味気ない言い方になるが、突き詰めれば…他者を…ひいては自己を理解することの難しさと、それを誤ること・疑心することによる悲劇に他ならない。

    その象徴と思しき「翻訳」という行為。
    「本の方がよく人の心が見える。」という言葉も出たが、妻の作品を夫が解釈して翻訳(二次作品化)する構図は極めて象徴的で…

    『翻訳とは理解を試みる作業。隠されたヒントから隠された言葉を選び取り、更に隠された心情を読み取る』

    というセリフが端的。

    その行為は創作のみならず、実生活の投影でもあったわけだ。創作生活を現実にも重ね合わせる発想は「小説家の檻」からの流れを感じる。

    そして…妻の作品の「難解さ」と「自分は何か勘違いしてやしないか」という不安が、本作の悲劇の基本構造にも映る。
    ミステリアスな作品だが、謎解きは暗示のみに留まる。好きな人は好きに楽しんで…と言わんばかりのたっぷりな余白だ。

    そして、アナを埋め続け…最後に自己をも見つめ直して、精一杯の気持ちを囁く夫に…ざーっと冷や水を浴びせかける妻の最後のセリフ。この悲劇の結末に相応しい…なんともコンタさんらしいエンディングだ。

    …ここで終われば良いものを、好きなもんでミステリー部分に空想を拡げる。ここから果てなき妄想。本質でないことは分かってる。矛盾をつくとかダメ出しではない。純粋に思索の楽しみ。

    最も謎なのは、やはり妻の精神構造。単なる「性行為の記憶の欠落」ではない…性行為直後には満足感・幸福感の描写があり、忘れるのは寝て起きた後…というタイムラグの謎。とてもPTSDの疑いの延長戦上とは思えない。。一種のフラッシュバックにしても妙だ。本当に忘れてたとしても、体に残る違和感は必ずあるはずで、続けば自分に疑心が湧くはずだ。

    そして「産んだ子を認知できない」という症状。そもそも人を猫と認知する状況は、「忘れる」とは一線を隔す。演出上の比喩等の類とも思えず…更に起こる殺害疑惑…「何かしら妻の意思が介在した行動…あるいは狂気」を疑いました。

    妹の言う『都合の悪いことは全部捨てて、自分は綺麗なままでいる』、『1人だけ汚れないままでいるのは許せない。』からも、過去に何か元カレ事件以上の確執の存在を確信していましたが…結局、最後の井戸の底の事実を目撃しての「妻(姉)の失踪」で、一貫した意図的な行動…という仮説は崩れました。

    そもそも当人からは「何かを企んでるオーラ」が一切無いので、この状況を両立させうるのは「多重人格+狂気」の構図かな…と思います。…ただ、人格遷移の「豹変」を感じさせる演出は無かったよなぁ…。まあ、意図的に隠して観る人の想像を膨らませているかもしれないし、当然、単なる私の見立て違いでも良いんだけど、何にせよ色んな想像が成り立つ演出は観ていて…そして観た後も面白いですね。

    他にも仮説はあって…、「夫婦の夜の行動」が同じだけでなく、ニュースすら同じ「北朝鮮ミサイル」が繰り返されるので、これは「実は夫の頭の中で反芻される記憶であって、妻は最初から死んでいた説」も浮かんでました(笑)

    編集者・妹・少女も絡んでいくことで、あっさり瓦解した仮設でしたが、観ながらそういう疑惑を膨らませるのって楽しいのよ。

    夫の心情が本作の核ではあると思うのだけど、夫のみならず周囲の全てをあらゆる方向で惑わせる妻の芝居は、観客をも激しく惑わせて、楽しませてくれました。(終

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    2018/01/06 16:23

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