ノゾミの生まれた日 公演情報 南山大学演劇部「HI-SECO」企画「ノゾミの生まれた日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    過去に未来に…現実に虚構に…目まぐるしくシーンが切り替わり、時にラップする。
    シナリオの構図そのものにミスリードを仕込む意欲的な脚本。

    主に弟(信彦)パート、姉(頼子)パートに分かれるが、非情に意味深な繋がりを持つように思えた。

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    ネタバレBOX

    (続く)
    まず、弟パート。
    1つの芝居の中に「信彦」と「好感をもって信彦を支えようとする人」の関係が虚構も含めて多数現れて、この構図を印象付ける。更にはその存在感も重なりを感じさせ、虚構が何かのモチーフであることを匂わせる…それも多義的。
    …気づかぬうちに、あの手この手でこの作品中に多層・多重の空間を作り上げて、観客を色々な解釈の中に吸い込んでいく構成に唸ります。

    特に妙手なのが虚構の入り混じり方。
    最初は、提示される順に従って、信彦の「今の現実の出会い」を元にして、…本人が今まさに描いている「ネーム」が並行して演じられているのかと思っていた。

    つまり、主が「信彦-希」の現実で、従が「少年-少女」の虚構だと思っていた…が、終盤、虚構は実は過去の「処女作」であると暗示され、主従が逆転する構図に…。

    更に解釈を多様化させるのが、徐々に疑いを増す「信彦の心神喪失状態」

    信彦の発言、信彦の認識に基づく描写"全て"を疑って掛かる必要が生まれ、現実と思っていた部分も虚構との区別が危うくなる。
    何処までが現実で、何処からが虚構?妄想?幻?…不確かな境目、すり替わる虚構と現実。どこが現実の基準となるのか曖昧になってきて、何を拠り所に観ていれば良いのか分からなくなってくる感覚が堪らなく面白かった。
    ここまではシナリオの面白さ。

    次に、作品に込められた想いのヒントとして、…
    …本作には「自己否定の言葉」と、それを救済する「他者の価値を認める言葉」が数々現れる。

    「私は居ない方が良い」
    「生まれない方が良かった」
    「認めて貰えない人間は無価値」


    これらの発言に対し、更に「存在価値を与える言葉」が並ぶ。
    「お前がいてくれて良かった」
    「私が(君の作品を)好きなのに、君がそれ(私が好きであること)を否定するのは間違ってるよ」

    これを結末にするだけで一作が成り立ちそうな言葉の数々に、観客のほとんどが心地よさを感じたのではと思うのだが、…
    …本作はそれを大胆にひっくり返す!

    結果として信彦は、これらの善意を殺める。

    今宮に対しては事実は曖昧だが、希に対するソレは「本人が死を望んでいる様」には一切見えぬ衝撃的なシーンで、それまで観客の目に映っていた2人の関係を突き崩す。
    実際、信彦絡みの描写には全て病的妄想の可能性があって、事実関係には多様な解釈の余地を残すが、「他人の自己否定を否定し、存在価値を与える言葉を贈ることが必ずしも救済にならない」という怖さを感じた。

    死にたい人には反ってNGワードで、…
    …むしろ追い詰めることになる…この展開は驚きだった。サイコパスとも異なる雰囲気。

    この徹底的な自己否定意識の根源は何か。児童虐待とも窺えるが決定的描写はない。編集のダメ出しは大きなショックだが、その後も漫画は描いている… 謎めく。

    さて、弟パートの対比となる姉パート。

    ここで思い浮かんだ事が2つある。
    弟の凶行に対する…観客が思い浮かぶであろう思考への反証と、弟に宛てた一つの回答だ。

    信彦の凶行には、まだ「個人の弱さ」を非難できる余地が多分にある。…
    …そこまで背景を明示していないだけだろうが、観客に敢えて非難させる隙を残しているのかも。
    翻って、姉・頼子の境遇は、徹底的に「個人の強さ」では全くどうにもならない苛烈さがあった。どぎつい家庭内レイプシーンもその極限を理解させるためか。

    で、1つ思い浮かんだのは、弟パートで「当人の弱さを責める思考」を呼び込んでおいて、姉パートで、そんなこと言っても「徹底的に個人ではどうにもならない状況」があるでしょ?と突きつけているという解釈。観客の甘い反論をシャットアウトする意図?
    …もう1つは、逆に「より過酷な境遇」でも立ち上がった「頼子の意思」を信彦に示すため…という解釈。

    ただ、信彦を責めるだけでは本作で積み上げてきたものとは逆な気がする…悩ましい。苦境から逃れるには、何か頼るべきものが必要なのは確か。…
    頼子の最後の選択を巡り、リスクと非難を囁く周囲の声の中、それでも頼子が「自分の意思」ですがった危ういノゾミ。人によっては、それは自死であっても良いのかも…自分の意思であるならば。

    かなり迷走した…。脚本を改めて読んでみたい作品でした。

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    2018/01/06 01:31

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