満足度★★★★
『かかづらふ』
最初は、母の介護をする娘として七味さんが登場する。どうやら痴呆症であるらしい母親を施設に送り出すまでの朝の風景だ。母を起こし、着替えさせ、食事をさせ……。
気がつくとまた同じこと光景が繰り広げられる。繰り返される会話と行動。しかしそれが少しずつ歪んでいく。困窮していく暮らし。母の病状。追い詰められていく彼女。
そして……。
悲劇的な結末のあと時間が巻き戻され、しかし今度は母親の側から同じ場面が綴られていく。もう一方のパートが描かれることで、娘が追い詰められていった訳も理解できてくる。
ときに自分自身を失い、ときに取り戻し、痴呆の進行とともに母親の苦しみが深まっていく。
身につまされる重い題材、印象的な構成、そしてそれを体当たりで演じる七味さんの気迫。
観終わってすぐには言葉も出ない、しばしただ余韻を噛みしめるような、そういう作品だった。
『家族百景』
こちらは打って変わって大人数の舞台だ。
家族の思い出が詰まった家が、明日取り壊される。すでに独立して別々に暮らしている子どもたち孫たちも、今夜はこの家に集まって名残を惜しんでいる。
そんな中、古い写真が出てきたのをきっかけに、思い出話が始まって……。
祖母と祖父の出会いから語られる家族の歴史は、破天荒なエピソードも挟みつつ、それぞれの想いを丁寧に綴っていく。場面によって演じる人変わりつつ、その役柄以外の時も皆が舞台を見守っている。
誇張された破天荒なエピソードもあれば、じんわりと優しい思い出もある。
現在の家族の形も絡めつつ、家族のそれぞれのお互いへの想いが細やかに描かれていた。
期待を裏切らないクォリティの2本立て。身につまされる重い題材を印象的な構成で描く『かかづらふ』と家族の歴史を破天荒な笑いと細やかな愛情で綴った『家族百景』。
どちらも家族の物語であったが、2本の印象がこんなに違うなんて予想外だった。どちらを先に観るかで印象も変わってくるだろう。
何より一方を演じ、もう一方を演出する七味さんのエネルギーに驚かされた。