相談者たち 公演情報 城山羊の会「相談者たち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    この劇団を初めて観た池袋での舞台を思い出した。(最低な舞台・・とどこかで書いた感想の原因を思い出した。)
    三鷹での前回は同じく吹越満出演で、リアルを踏み外す要素があってもうまく作られた濃密な芝居だった。それと比較すると、演技陣の仕事には感心しきりだが、作劇が苦労の途上に感じられ、隙間が多い。観劇後に穴を埋めていく事は可能だが・・面白いが惜しいという感想。

    ネタバレBOX

    舞台はゆったりとした夜のリビング。富裕層のそれらしく大きな絵画が吊られたりしている。人物は吹越演じる父(何か忘れたがある分野で一定の評価と地位を得ているらしい)、若い浮気相手(鄭亜美)、別れようとしない妻、会社勤めの娘、その交際相手、そして若い女とのかつての交際相手(父と元同じ職場の後輩)。リビングにはまず熟年の夫婦、そこへ娘とその同僚兼交際相手(どうやら初めて紹介するつもり)、最後にたずねてくるのが外部の者たち。何やら抜き差しならぬ事情がありそうだが、実は父の浮気相手とその元?交際相手である彼らがなぜ夜に時間帯にやって来たのか、彼らの正体は何かが顕わにならない時間が長い。誰もそこを突っ込まないのも不自然。修羅場と化すはずのリビングだが、表面上冷静さが装われ、説明的な台詞のやり取りも可能。だが冷静さが表面上だけでなく実際冷静なんではないかと見える憾みあり。話題に直接関係のない娘と恋人のカップルが、父に「あっちいってろ」と言われても何だかだとタイミングが合わずに去らない、というのも娘のデリカシー的にどうか・・結局殆どの時間、引っ込まずにリビングで父の醜態も含めて「見ている」。そのシュールさは狙いであろうし、それ自体はよいのだが。緩急という面ではスピーディに展開する時間の割合が低いことと「リアル」を潰している部分の総合点で、評価は下がるのだろう。
     だが、全体としてはリアルに「あり得る」話だ。たとえば台詞には微かなヒントしかない要素が、女にとってのステータス。すなわち若いその浮気相手が、前の交際相手の男性を見限った理由だ。・・離婚してくれといくら頼んでも彼が煮え切らなかったので冷めてしまった、と女は説明したが、その「彼」は本気で妻との離婚協議を粘り強く進め、何もかもを失ってついに離婚を成立させた、ところが彼女は「父」に乗り替えていた、そこでこの邸に踏み込み、熟年夫婦に「離婚しない」よう哀願しにきたという経過であった。
    前の男性と交際期間が「かぶっていた」指摘に対してもめげず、女は父に向かって言葉を紡ぎ、如何に自分が父を敬い慕っているかを必死にプレゼンする。その見え透いた台詞が父には(彼女を生理的に(性的に)求めているので)ジャブとして効いていることも舞台上に見え、社会的ステータス的に「父」のほうがうんと上だという値踏みが、女をして彼を絶対得るべき相手と判断させ、「惚れた」という自己暗示を殆ど無意識に施したらしい軌跡が目に見えるような・・こういう役を演じる鄭亜美は無二である。
    自立した娘にとっては父のスキャンダルも単なる軽蔑の対象でしかないが、今日は父母に自分の交際相手を正式に紹介しようとしてやってきた、という事が、この一件と「完全に無関係」を決め込めない要因になっているが、一方その交際相手は無関係を決め込んで良いはず・・なのだが、その彼が客観的な視点で身も蓋もないコメントや質問を「当事者」に差し挟んで介入していくのが笑いになる。恐らくどこか恵まれた環境で育ち、就職もして社会人としての常識も的確に身につけているが、どこか「天然」を感じさせるキャラが作られているのが、この介入の行為にも生きて笑える。
    吹越夫の妻に対する「離婚」の申し出も、何やら子供がプラモデルを買いたいからお金をくれ、と言っている態度に似ていて、彼にとって若い女への欲求が「物」をほしがることと本質的に同じである事が仄めかされている。若い女もそのように自身をアピールして「売ろう」としており、男の方もこの種の欲求を育てる環境(社会的地位、経済力)にある。だが落語「千両みかん」の最後の番頭のようにトチ狂ってしまうのがこの男で、既に勝っているはずの恋敵の頭を玄関ロビー(客席から見えない)での乱闘の合間、大きな灰皿で殴打してしまう(見えないが死亡が予想される)。騒ぎの興奮を性的興奮に転化した二人は母の見ている前で互いに唇を奪い合い、二人の荒い息遣いと、力ない母の「ここではやめて」の台詞を残してフェードアウトとなる。ストーリーラインは女の元交際相手からの直談判と、その中で事実関係が説明されていく、というもの。説明の順序の工夫で「謎解き」の面白さ、それに対するリアクションの面白さはあるが、コンテンツ的にはやや淋しい。
    最後のキスシーンも不要に長いが、この作り手は観客が「濡れ場」を期待してやってきていると勘違いしているのではないか。

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    2017/12/16 01:49

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