アルラウネの滴り 公演情報 幻想芸術集団Les Miroirs「アルラウネの滴り」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2017/11/04 (土) 14:00

     毒気を含んだ禍々しい赤紫色の灯りに染まり地から生えたように、手の甲を苦し気に天に向けた肘から先を象った石膏像が舞台中央に置かれている。

     観た瞬間に、一年前のあの妖しく美しく濃い空気が甦って来た。

     赤紫色に染まった腕が血のような、燃えるような紅に染り、ぞくりとする妖しさに震えた瞬間、アルラウネの舘の扉が開いた。

     去年は、その天に差し向けられた手の真上に、絞首台の縄が下がっていたが、今回はその縄はなく見えるはずはないのに、それは確かに今年もまた、指し伸ばされた腕の上に視えた。

     去年は、まるで、焦がれても手の届かないい何かを求め、掴もうとして掴み得ず踠く(もがく)ように天に向けて伸ばされたと見えたその手が、今年は、悲しみや苦しみ、憤り、何かを引きずり込もうとするような、去年よりももっと強い何かを投げかけて来るような感じがした。

     何かとは何だろう。それは、自分を無実の罪に陥れ、処刑した者へ向けての憤怒若しくは悲しみ、残して行く娘フローラへの気がかり、この世に残す未練なのか、それら全てを引っ括めた絶望だったかも知れない。

     冒頭のこの瞬間から、去年とは違う『アルラウネの滴り‐改訂版‐』を感じ、引き込まれて行った。

     どう言えばいいのか、私の中で『アルラウネの滴り』は、紫のイメージで、その紫の中に緋や黒、蒼い闇の色がちらちらと瞬き煌めいているイメージなのだが、今年はその紫の悲しみと愛憎が、去年より更に色を濃くし、仄見える緋や黒、蒼い闇の色がより強く妖しく煌めいて目を射抜く感じがした。

     罪なき罪を着せられ、絞首台の露と消えた父の亡骸を抱き慟哭するフローラ(乃々雅ゆうさん)の前に現れた黒衣を纏い絞首刑台の元に咲き、無実の囚人の嘆きが滴る土の下で、世にも美しい娘の姿を育む毒花アルラウネの花の精を仲間とする謎の男カスパル(朝霞ルイさん)。

     カスパルにより、トレッフェン通り十番地の賑やかな歓楽街の片隅で、娼館“アルラウネの館”の女主人となったフローラは、その軆自体が毒である人の姿を纏ったアルラウネの花の化身、妖しい笑みを投げかける娼婦達を紫の飾り窓に綴じ、共犯者カスパルと共に、仮面の宴で都の夜と館に訪れる男たちを酔わす。

     アルラウネの娼婦たちの接吻は死の接吻 、その蜜は天上の媚薬。彼女たちと愛の交歓は、その毒に徐々に侵され、やがて齎(もたら)されるのほ狂気若しくは死。

     計略と愛憎が渦巻く館で、フローラの父を陥れた男たちは灯蛾を焦がすようなアルラウネ達の甘美な罠に溺れていく。

     『アルラウネの滴り』は、烈しい毒と妖しさ、鬩(せめ)ぎ合う愛憎、一滴の孤独と紫の悲しみ、緋(あか)い憤りと息を詰めるような頽廃の馨が濃く薫る世界。

     『アルラウネの滴り‐改訂版‐』は、紫のイメージ。紫の悲しみと愛憎が、去年より更に色濃くなっていたように思う。

     1年前に『アルラウネの滴り』は、エーヴェルスにあの日、愛を根刮ぎ引き抜かれたカスパルの涙だったのではないだろかと書いたが、1年を経た『アルラウネの滴り‐改訂版‐』のアウラウネが滴らせたものは、エーヴェルスによってあの日、フローラは大切な父を無実の罪に落され絞首刑にされ、カスパルはエーヴェルスに微かに寄せていた子としての思慕と怯えながら求め、僅かにでも自分に持っていると思っていた父性が偽りだと知り、悲しみと愛を憎しみに変えたエーヴェルスへの紫の愛憎、復讐の毒だったのではないかと思った。

     そしてまた、人は変わるものであり、どう変わるか、何に変わって行くかは、その人次第であり、それが、生身の人間であれ、舞台の中の人物であれ、どちらも時間と共に成長し、歳を重ねて行けるのだと思った。

     変われなかった、変わらなかった、エーヴェルス(高山タツヤさん)、ブリンケン伯爵、カール殿下(杉ブリンケン伯爵と一人二役の杉山洋介さん)を置き去りにして、フローラもカスパルもフランツも、クロリス(マリコさん)やアルラウネたち(麻生ウラさん、小川麻里奈さん、武川美聡さん、中村ナツコさん)もアルラウネの館の中で、時代の中でも、関わる人達の中で、強くしなやかに生き生きと変わって行く。

     烈しい毒と妖しさ、鬩(せめ)ぎ合う愛憎、一滴の孤独と紫の悲しみ、緋(あか)い憤りと息を詰めるような頽廃の馨が濃く薫る世界。 

     幻想的かつ耽美で美しい紫の毒を宿し、その紫の中に緋(あか)と黒の愛憎、蒼い闇の色がちらちらと瞬き、その紫の悲しみと愛憎は、去年より更に色を濃くし、仄見える緋や黒、蒼い闇の色がより強く妖しく煌めいて胸を射抜く刹那く美しいアルラウネの物語だった。  

                   文:麻美 雪 

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    2017/11/12 08:26

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