満足度★★★★★
地に足のついた想像力
「もしも被害者の家族が加害者の死刑にかかわることになったら?」
心に渦巻いているであろう計り知れない憎悪と殺意をにじませる被害者家族、そして死刑を前に恐怖と悔恨を抱く加害者。その緊張感たっぷりの対峙から浮かび上がるのは、人が人の命を奪うことの不可解さだ。
死刑執行員の立ち合いのもと、被害者家族が死刑に参加するという架空の制度のもと、淡々と死刑執行までの手続きが行われていく。そこで交わされる場違いな世間話は時折笑いを誘い、せっかくの緊張感を台無しにしかけるが、その危うさを乗り超え、作・演出の畑澤聖悟さんの想像力はしっかりと「死」の方へ引き戻す。
野球チームができるほど子宝に恵まれた死刑執行員の実に幸せそうな話には、制度上認められているとはいえ人の命を奪う仕事に携わる者だからこその不安、無意識に働く生命のバランス感覚のようなもの、が語られる。なるほどと思う。
確かに身内を殺されたら、加害者に復讐したくなるだろう。しかし、公認とは言えども、死刑執行に参加することは、加害者と同様、「人に死をもらたす」ことになる。「殺人者」だ。作中では、未亡人の再婚話を前に、その問題を浮き彫りにする。
制度を持ち込んだからこそ、そして作中に出てこない部分も含めて綿密に設定しているからこそ、「死」の割り切れなさが、どの人物からも浮かび上がるような描き方になっているのだろう。現行の死刑制度やほかの法制度も取材したのだろうし、実際に死刑囚にも会っているのかもしれない。綿密な設定と人物の心情が、せりふを通して結びつく瞬間、瞬間に驚きとずしりと重い衝撃を感じるとともに、現実と違うルールの世界に見事に引きずり込んでくれたこの力に心の底から「想像力」という言葉を与えたいと思った。