その人を知らず 公演情報 東京デスロック「その人を知らず」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演劇的な企みに満ちた3時間
    何を書いてもネタバレになってしまう東京デスロック、というか多田淳之介氏の演出。

    途中休憩10分の、計180分。
    確かに長かった!
    いつも長さを感じさせない多田演出が、今回ばかりは長さを感じさせました。
    でもそれは三好十郎の戯曲に対して敬意を払っての事。
    デスロックの場合、その戯曲を一切削らずに提示する事、そしてそれによって180分という芝居を提示する事で逆に客が試されているという部分もあって、そこで負けずに集中して見れるかどうかでこの作品の評価は分かれるんでしょう。
    とりあえず観劇初心者向けではないことだけは確かですね。

    あと、芝居の内容とは別に、上演が開始されると空調を切るアゴラなので、さすがに180分経つと寒かったのがつらかったです。。。
    これから見る方は寒さ対策だけはした方が良いと思います。

    ネタバレBOX

    幕で覆われた舞台。
    デスロックの場合これが開くと何が飛び出すのか、というワクワク感がたまらないです。
    他の劇団の場合は単に大掛かりなセットとか、キレイな美術が隠されているだけかもしれませんが、今回のデスロックは学校の小さい机6つくらい(?)の上にぎゅうぎゅうにおしくらまんじゅう状態で体育座りで座っている役者の群れ固まっている状態が提示されます。
    そしてその後方には十字架状態の夏目さん。その上に投影されているのは日の丸。

    戦時中の日本。
    徴兵を拒否したキリスト教の男が非国民として迫害され、その家族も迫害され。問い詰める軍部や庇う神父等が、かなり抑揚を抑えて句読点で敢えて区切らないで早口に言うセリフをかなりの速さで繰り出します。
    どの人にも見せ場となる長セリフがあって、一心不乱に長セリフをマシンガンのように叩きつけるように投げかける。でもセリフ自体を聞かそうというよりは、その言葉の力や勢いを伝えようという様な気がします。
    長セリフには歌謡曲が被さる時が多いのですが、曲のボリュームは大きめで時には役者のセリフをかき消します。
    でも、それでもしっかりそのシーンで伝えたい事は伝わってくるのが多田演出の凄いところ。いや、観客が判ってなくても、理解できてなくても雰囲気がつかめていれば大丈夫という割り切りが潔いです。

    第一部は空襲と終戦で終わりますが、空襲は小学校の玉入れ使ったような赤い小さい布の玉が、かなりの勢いで舞台の上から役者に投げられます。
    当たると結構痛そうです。
    役者たちは机を防空壕に見立てて身を隠します。
    混乱と絶望と緊迫感の内に第一部が終わります。
    第一部の最後は役者たちが机を投げ捨てて、部隊の床のマットをはがして大騒ぎする絵で幕が降りて終わり。

    10分の休憩を挟んで第2部なのだけど、始まり方に第1部とあまりのギャップがあって戸惑いました。
    幕は降りたままで、工場の経営が悪化した事に対する労働組合の集会での風景。集会で集まった人々に語りかける様に、観客に語りかける。しかも、第1部はかなり難しい言葉が多くて客がセリフを理解するのを拒否している感すらあったのに、第2部では普通に口語調で、普通の演劇のように語りかけてきます。
    そして、そんな労働組合の英雄として主人公が招かれます。
    しかし・・・。
    彼は自分がした事で多くの人に迷惑をかけたと後悔していて、組合員に檄を飛ばすか、徴兵拒否という英雄的行為に対する英雄的話を期待していた組合執行部の思い通りの事を言ってくれません。

    戦後になってもなかなか居場所を見つけられない主人公。
    夏目さんはずっと十字架にかかったままです。戦争は終わっても十字架は外されてないのです。
    第2部始まりは黒い幕で覆われていた舞台の幕が開くと、中は壁に白い幕。
    途中で白い幕も外されます。
    すると、そこに出てくるのは大きな鏡を6枚くらい並べたもの。
    客席に対して真正面に置かれているために、観客はイヤでも自分自身の姿を、そして客席全体を見ざるを得ない事になります。
    これはかなり新鮮でした。

    最後、主人公は十字架から解き放たれて終わります。

    正直なところこの作品を理解できるだけの頭が自分にはなく、混乱したままの状態です。
    でも、これを「わかった」と言う人がいたらそれは何もわかってないのだと思います。
    このわからなさを引き受ける事がこの舞台の正しいあり方のような気がします。

    難しい言葉に突飛な演出。そしてそれらを現出させる役者に加えて今回は観客までその演出に引き込んだ。
    この演劇的な企みに満ちた3時間は、個人的には長くつらいものだったけど、そこまで含めて東京デスロックの作品なのだと考えると、「演劇って何だろう?」と考えさせられてしまいます。

    とりあえず、東京最後の公演なので年明けにもう一回見に行って目に焼き付けて来たいと思います。

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    2008/12/29 04:31

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