シンクロナイズド・ウォーキング 公演情報 劇団青年座「シンクロナイズド・ウォーキング」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「障害を描く」という障害への果敢でしなやかで、涙ぐましくも爽やかな挑戦。
    数年前の燐光群での同作初演は作家清水弥生のデビュー公演で、師匠坂手洋二に及ばない二番手レベルか、との先入観で眺めたものだが、モノローグ(またはモノローグの分担)の多い坂手作品に比べて普通の芝居、対話によってこまやかに事態が動く、ただしモノローグやスローガン的台詞もあって坂手色。対話(ダイアローグ)とモノローグの二つのバランスを、燐光群寄りの演出(全体でモノローグを分担して言い合う雰囲気が支配的)でまとめた、私としては消化不良の舞台だった。
     劇作家協会新人賞を争って惜敗した秀作「ブーツ・オン・ジ・アンダーグラウンド」を経て、昨年はフィリピン・日本を題材にとった作品がまた優れていたが、私にとっては清水氏の船出になったこの作品の「リベンジ」への期待、また女優・西山水木演出への未知なる期待をもって観劇した。
     戯曲は東京オリンピックに向けた実際の動きとリンクした改稿が見られ、他にも随分書き改めた跡があったように思う(記憶は朧ろで確証はないが)。初演の粗い印象は残るが、障害者と路上生活者を絡ませる設定は「硬さ」「盛りすぎ感」を生む反面、この場所・人にしか出せない台詞を発せしめることで自立と連帯のテーマを新鮮に浮かび上がらせていた。「ブーツ・・・」にも描かれた障害を持つ者の「欲求」への悲痛で美しい叫びがあった。
     西山演出、終始生演奏が幅広い音楽性で舞台を全面的に支え、脇役でポイントとなる男二役には外部からの役者を当てた。内一人が音楽絡みでもヤクザの演技でも場をさらっていたが、全体のポテンシャルの中に溶け込んでいる。時として飛躍気味なテキストに、丸みとユーモアを与え劇空間に馴染ませるのを高いテンションが可能にしていた。動線やシーンのまとめ方、映像の仕込みなど、多彩な趣向は(「本当は俳優だと見るせいか)見事に演出を果たしたと感服。
     これは一長一短だが、決め台詞が多い。あれだけ言い切ってもまだ「無理解」になびく要素は残る、その退路を断ちたい思いは痛いほど分かる(と、自分では思っている)。が、「感動」の色合にまとめるシーンの決め台詞がたび重なるのはきつい。涙はもっと振り払っていい、一度泣いて、そして最後にもう一度、泣けばいい・・というのが体の正直な反応。

     ただ、この作品の(私にとっての)真価は、(これも「ブーツ・・」にあった要素だが)障害者の恋愛に触れていることだ。そのシーンをこの舞台上に作れた事に、作者の心尽しと演出の粋に、拍手である。
    (演劇の力とは既成事実をそこに作り出すこと。)














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    2016/11/05 00:36

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