満足度★★★
前回よりも進歩した上演
7日夜、スクエア荏原ひらつかホールで上演された東京イボンヌ『ドヴォルザークの新世界』初日公演を観てきた。東京イボンヌとの付き合いは、だいぶ以前に主催者の福島真也氏と知り合って以来続いている。
あらすじは、それほど難しくはない。ヨーロッパからアメリカの音楽学校教師としてアメリカに渡ったドヴォルザークが、アメリカ人のインディアン迫害という現実に直面しつつ、偶然知り合ったインディアンとイギリス人とのハーフでインディアンの一人として居留地で暮らすサラと知り合い、アメリカという新世界にふさわしい交響曲をインディアンの音楽を取り入れることで作り上げていく過程を、コメディタッチで描いている。
劇の内容としての深みは、全体を包むドヴォルザークの音楽創作活動というより、後半に出てくるサラとその母の数奇な運命にある。従って、クラシックコメディという笑いは主に前半に集中し、笑いは後半に行くに従って悲しみへと変わっていく。と同時に、観客の舞台への集中力徐々に高まっていく。
舞台成功の鍵は、ドヴォルザーク演じるなだぎ武とサラを演じる元NMBの山田菜々の絶妙なやりとり。ただ、全体的には会話やシーン転換の際に妙な間ができる瞬間が数回あって、脚本と演出に若干問題があるなぁと感じさせられた。脚本に関しては、話の展開に破綻が観られる箇所もあって若干不満。
前回公演に比べ、舞台上の演奏者の扱いや、必要最小限の大道具による場面転換は格段の進歩を見せていて喜ばしい。演技と音楽のバランスというか、演技の中に音楽が出てくるタイミングも前回より良くなっている。
また、今回は歌や演奏だけでなくダンスも加わって、舞台が華やかになっていたのも特徴の一つ。
品のある笑いと、それに対比できるだけの悲しみ、そして適度な音楽を、広さに制約のある舞台上でこなす東京イボンヌの基本的な上演形態の基礎は固まったように思う。次回は『酔いどれシューベルト』の再演。初演を観ていないので期待しているが、再演にどれだけ観客を動員できるかも劇団としての将来に関わる重要なポイントとなるだろう。