椿姫 公演情報 カンパニーデラシネラ「椿姫」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    物語性豊かな身体表現で悲恋を綴り、社会を映す
     パントマイム、ダンス、お芝居で、男女の恋愛の駆け引きを華麗に綴っていきます。ほぼ何もないと言っていい舞台空間ですが、机、イスなどの小道具を生き物のように使いこなし、ドラマティックな場面を次々と繰り出していきます。舞台上下(かみしも)に設置された照明器具もイスや机と同様に存在感があり、照明の明かりから生まれる光と影はもちろん、劇場内の木調の壁も活かしていました。

     机を並べて大きなテーブルにすれば晩餐会、机上を歩けばファッションショー、テーブルの下にもぐり、また上にのぼる動きを大勢で組み立てれば、人間の上下関係が見えてきて、社会そのものが立ち上がります。身体表現で描く無言の群像劇はシビれるかっこよさでした。
     衣装(駒井友美子)も良かったですね~!男性はスーツのアレンジ、女性は夜会服系のワンピ-ス。出演者の個性、体型にピタリと合っていて、それぞれに色とデザインが違うので、すぐに見分けがつきます。照明で生地の艶と質感も変化し、スカートの裾が揺れ、ジャケットの前身頃がはだける様も絵になっていました。

     恥ずかしながら『椿姫』はオペラしか観たことがなく、原作小説に基づいたエピソードや演技については詳細まで理解できたわけではありませんでした。ただ、言葉ではなく動きや表情、視線から浮かび上がってくる物語は雄弁で、観客に向かって発せられていることがわかるから、私も常に前のめりな気持ちで受け取っていくことができました。舞台の作り手が媚びることなく、観客に物語を伝えようとしている、その姿勢がはっきりと出ているのが素晴らしいです。

     娼婦マルグリットに恋する青年アルマンを演じた野坂弘さんは、目が大きくて表情が豊か。コミカルで瞬発力があり、無言でも多くのことを瞬間的に語っていました。驚いたり悔しがったりする時に、とっさに漏れ出る声のバリエーションが多いのも魅力でした。
     アルマンが恋する椿姫ことマルグリット役は崎山莉奈さん。細い身体と少し子供っぽい表情は可憐な美少女の印象ですが、ダンスはとても力強いです。カクカクと体が折りたたまれていくような演技や、ピタっと静止したかと思うとすぐに動きだす所作に見入りました。

     メガネをかけた男性で、「私」こと作者のデュマ・フィス役を演じた斉藤悠さんは、ハリウッド映画に登場するイタリアン・マフィアみたいにスーツが似合う!クールなヒール役が板についていて、どうかと思うほどかっこ良かったです。アルマンと女性を取り合って対立する場面にゾクゾクしました。
     キレのある素早い動きが印象に残った短髪の鈴木奈菜さんは、Noismにも参加されているダンサーでした。彼女が動くと風が見えるようでした。

    ネタバレBOX

     男が女を口説こうとすると、女はまんざらでもない素振りをしながら、すり抜ける。互いの体の一部に腰掛け合って、もたれかかるけれど、素早くかわす…1組のカップルが、人類が繰り返してきた男女の闘いの歴史を示していきます。やがて挑発的な美しい娼婦たちが闊歩するなか、アルマン(野坂弘)とマルグリッド(崎山莉奈)に焦点が当てられていく…導入から魅了されました。

     客席に向かって女性が1人で笑う場面は、他人を嘲笑するうちに自分自身のことを笑い、憐れんでいる姿に見えてきます。ガクっと素早く落ちてから、ゆっくりとさらに下降する動きに人間の堕落を見ました。アルマンが「彼女を愛してる」と下手で真剣に独白すると、上手で華麗に座っていた「私」が鼻で笑ったんです…く~面白い!

     女性が無理やり「Bet!」と言って、男性に賭けさせるギャンブルの場面がコミカルで可愛らしかったです。おどけた声と身振りが可笑しいんですよね。カンパニーデラシネラの公演で藤田桃子さんがよく担当されている楽しい時間が、若手にも受け継がれているのだなと思いました。

     マルグリッドの死後に彼女のノートがオークションで高値で取引される場面が、中盤に挿入されていたように思います。原作を知らない私には少々難解で、できれば何かしらの説明(言葉でも演技でも)や、構成の変更があった方がいいのではないかと思いました。わかりやすくする必要はないという判断なら、それはそれでいいとも思います。

     椿の花がぽとり、ぽとりと落ちてくるとても美しいラストシーンで、携帯が鳴り響きました…しかもすごく長い時間…鳴らした人、猛省して頂きたいです…。

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    2016/06/05 16:18

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