満足度★★★★
モモコの熱演に釘付け
15年ほど前、野田秀樹が書いた濃密な戯曲。静岡・七間町という濃密な街で、地元劇団静火が好演した。
松尾スズキが演出して、多部未華子が主役のモモコを演じたという記録がある。農業が大嫌いと九州を飛び出して東京行きの寝台特急に乗ったモモコは、ロリコン男に住まわせてもらいながらいかがわしい商売やボランティアなどさまざまなところに首を突っ込み、ウンコがウンコの臭いを消すという『農業少女』という銘柄の米を不登校の少女たちに作らせて儲ける、という策略に巻き込まれる。
野田MAPらしい、テンポよく意外な展開が続く戯曲だ。列車の音、携帯の着信音などSEまで自分たちでこなす静火の役者たちの、汗とつばの飛び散る熱演に心地よく巻き込まれる。特に、モモコの熱演に釘付けだ。千秋楽のモモコを演じたのは海野とも代。その小さな体からは想像がつかないような熱量が発せられていた。
静火はこれまで、シェークスピアなどに取り組んできた小劇団だったという。今年は野田作品をやると決めて、「農業少女」はその実験公演という位置付け。秋にやるのは野田MAPの第一回公演の演目「キル」。千秋楽のあいさつでは、この秋公演での出演者を客席から募集した。
東京・下北沢などの小劇場では、客席と舞台の距離が近いのが味なのだが、静火を率いる演出家の渡辺亮史氏は、この静岡・七間町を「下北沢にしたい」と意気込む。千秋楽で次回公演の出演を募るという劇団は、本家の下北沢以上にシモキタちっくである。七間町が静岡の演劇好きたちによってどんな化学反応を起こすか。これは見逃せない。