ジレンマが嗤う 公演情報 神奈川県演劇連盟「ジレンマが嗤う」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    正体不明だが元気のよい舞台
    諸々ネタバレにて。

    ネタバレBOX

    演じるどの役者も初で、拙さもあるが声はよく出て気持ちがよい。
    KAAT神奈川芸術劇場大スタジオのステージの容積をフルに使用。舞台ツラに路上(戸外)、上手上段(便利屋事務所)と下手上段(スナック)に具象のセットが組まれ、シーンが移り変わる。技術的な点では、他シーンのケツで次のシーンの人物が、部分暗転の中で登場すると動きが見えてしまい、「見える」前提で動き方を工夫する等は、この舞台としては考慮して良かったのでは。
    「陰謀」の影が見え始めるあたりから、物語らしくなってくる。が、なかなか話が入り組んでいて全体像は判りづらい。この「判りづらさ」は、シーン転換のテンポを優先した結果とも思われ、それじたいは問題ではない。判りづらい中でも徐々にパズルのピースが揃い、穴はあってもおよその全体像が見えてくる、その「像」じたいの問題である。
    冒頭の場面(知己である三人の男女)が、最後のシーンで出会い直すのだが、この劇的効果は「何が変わったのか」あるいは「変わらなかったのか」が説明されるためにこそ発揮される。ではどう説明されたか・・そこが「判りづらい」のだ。
    「裏切り合うのが人間の定め」がおよその結論、とするならば、冒頭あった友情あふるるシーン(みたいな雰囲気のシーン)は、実は欺瞞であった、世の中そんなきれいごとじゃない、という結論によって「覆された」感が出なければ嘘だ。否、損得勘定でない何かが残るはずだ、と言いたいなら、それは何だったのかが見えて来なければならない。そのどちらかが判らない。
    主人公(ヤクザの首領の息子だが堅気になっている)の「(組織を)ぶっつぶしたい」欲求は、己の出自への呪いを背景にしているらしいが、これを中心テーマに置くとすると、では最後になぜ自害しないのか。「相手をつぶす」その理由を問われて自分もその一人であるヤクザの血への嫌悪を吐き出した彼が、(相手だけは死なせておいて)それを徹底しない。では本当の動機は?・・これが最もよく判らない。
    この「判らなさ」は、「自分が判らない」という台詞として語られ、テーマの一つのようにも思えるが自己弁護にも思える。「判らないが何かその行動には説得力がある」と感じさせる何かがあれば別だが、あっただろうか。
    主人公が新しい彼女?に愛を感じる背景も不明だ(元カノ然とふるまう冒頭登場の三人の一人の女がその女に嫉妬するに至ってはいったい何が何やら)。また、その新カノが「自分の立ち位置に不安を覚えて、首領(主人公の父)と主人公が対峙する場面では、なんと「自分はどうすればいい?」と首領の方に尋ね、主人公に銃口を向ける「自分のなさ」・・寄らば大樹、ならまだ判るが、ピストルを突きつけあっている(力は均衡)二人の内、一方は愛し合ってもいた相手。「意外性」を狙っての展開であっても、背景説明をほどこそうとする観客の想像力にも限度がある。かといってシュールさを狙ったようにも思われぬ。
    「裏切り」を働いた新カノは、主人公によって制裁される(その場で撃たれる)。ヤクザの血が嫌いと言ったその血が促す通り(「許す」という選択でなく)銃殺した、という行為は、彼の「ヤクザ嫌い」という思想に一貫性を与えたか、損ねたか。これは重要ではないのか。
    総じてみれば、抗争し合うヤクザ組織の「腐った部分」が、この主人公の働きによって一掃されてスッキリした、という風になっている。だが、クリーンなイメージとは裏腹に、殺さなくて良い人間も殺し、無為な殺生を回避する工夫を行なった形跡もない、これがヒーローに価するのか・・という素朴な疑問は消えない。顔格好と照明の当り具合のみ、ヒーロー然としていて、人間何をやってもそれっぽい雰囲気醸してれば「いいもん」に評価される、という理不尽を、勝者側に立った高笑いと共に世に出したに等しい作品だ、と、言われても仕方ないのである。もし彼がダークヒーローなら、その暗さを背負わせるべきで、爽やかなラストなどもっての他である。
    残念、ではあるが、シーンの作りやテンポなどなど、優れた所も沢山あった。笑える台詞も幾つか。オカマ役のキャラはこなれており、捨てがたい。・・だけに惜しい。
    「ヤクザ闘争モノ」の中で、今回の作品を特徴的にしたものはあるのではないか。これを残して純度を求めて行くなら、応援したい。その際には今の社会を「どうみているのか」がこのフィクションのヤクザ社会の描写にも現れたい。批評性を持たねば、フィクション性の高いヤクザ物は、ただただ浮いたものになりかねない、と思うので。
    また「まじめ」な話になりそうだからこのへんで。

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    2016/04/23 00:59

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