縋り雨 公演情報 牡丹茶房「縋り雨」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「この方向のお芝居の一つの到達点」は言い過ぎでも「観て良かった」とは胸を張って言えます
    事前パンフで主催が「女性の絶望を描いてきた」とあり
    (何故か「退廃の美」という言葉と勘違いしてましたが)、

    また本お芝居の始まりの印象からも、
    「きっと説明通りのラストになるんだろうなあ」と
    「その一方向にのみ突き進む舞台って最終的に面白いのかな?」と
    少し疑念も持ちながらの観劇でしたが、

    物語のスタートラインから段々と数限られた
    登場人物達の事実/背景が浮かび上がり、

    そして同じようで同じでなく、
    救いようがないように観せては度々
    「もしかして救われるのかな?」と
    想像させられるようなギミック的要素もあり、

    と2時間10分の大作でしたが
    最終的にとても「楽しませて」いただきました。

    今後、この方向のみでなく多方面のお芝居を作るなら
    追っていきたい劇団かな?と思いました。

    ネタバレBOX

    【思った事】
    事前パンフの説明、
    お芝居始まりの女性3人の「母親を失った(事に起因する)」という同一の不幸、
    舞台上に観える空気感から、

    ※ 舞台上の登場人物達の行動が裏目裏目に出て
      悲劇が更なる悲劇を生んで終わってしまう舞台の脚本/演出方法、
      名前なんて言うんでしたっけ?(チェーホフとかが得意とした一形態だったか?)

    「悲劇の本質を見せる形で進んでそのまま終わるんじゃないかな?」と思ってました。

    事実、女性3人を取り巻く登場人物と3つのグループの背景が見えていく中で、
    「幸せになるきっかけ」となりうる人物が存在しないように見えたので、
    きっと最初思った通りに「不幸に始まり大不幸に終わるのだろうなあ」と。


    しかし、舞台上の役者陣について、
    きっと「悲劇」という設定に向けてのお芝居をする、
    と心に決めているからこそのブレのない演技と
    そのひたむきさ(熱心さ)を感じ、

    お芝居の世界に引きこまれ(共感、反感、嫌悪その他色々な感情で同調し)、
    いつしか観劇の時間感覚を見失い、
    「物語の盛り上がり的にそろそろ終わりかな?」と思ったタイミングでの、

    (大きな波ではありませんが)
    「もしかしたら、この物語に救いが登場する?」と
    思わせられるような場面が何度かあり、
    何度も色々想像させられては騙されて、が楽しかったです。

    例.女子高生一家の不幸の源である「父親の暴力」に対して、
      漫画家志望が偶然にもその父親とゆきずりの情事を行う事になり、
      「ここで漫画家志望が父親を殺せばとりあえず女子高生は(ある意味)救われるかな」
      など。


    また、物語についても

    ・ スタートラインの単純に「母親を失った3人の女性」という
      同一の不幸から始まり

    ・ その内容の違いと
      更には女子高生、カウンセラーの不幸に比べれば
      「自分の不幸は甘すぎる」と思ってしまう漫画家、

      しかし「それでも自分はやっぱり不幸なんだ(としか思う事が出来ない)」という
      2人との距離(2人への引け目?)を感じて
      段々と異常な行動

      ※ 女子高生の父親と知ってなお関係を持ち、
        「初めて満たされた」と。
        そしてカウンセラーの弟とも関係を持つ。

      を取って、同じ不幸を持った3人から2対1の別の立ち位置に立っていく。

      同様に女子高生:カウンセラー、カウンセラー:それをカウンセリングする漫画家志望、
      という移り変わりも興味深い流れでした。

    という変化の過程について、
    それぞれの心理状況を推測/共感しながら観劇していて、
    なかなかに見えない各役の「心」の部分が動く作品だなあ、と。


    何度か「ここで終わりかな?」と思わせておいて、
    (その後更にその先の場面をを用意して)
    引っ張った部分は「長すぎ」の感もありましたが、

    最終的に、深い悲劇を抱えた2人は救われ、
    浅い悲劇と思っていた1人が救われない、
    という形、その状況がとても良かったです。

    1.女子高生
      親子の関係を修復する為に病気の少女を演じ続ける事を決意する。

    2.カウンセラー
      弟、叔父と通じ合う事が出来た、家族の形が復活出来た、と本人には信じこませておいて、
      弟、叔父のサイドからは
      「もう姉はまともじゃない、姉の言う通りに家族を演じてみせなければ本当に殺される」
      という恐怖支配。

    3.漫画家志望
      ゆきずりの男たちとの関係を持ち続けた中で、
      誰の子か分からない子供をみごもったその後で、

      初めて同棲していた男性が「愛/結婚を誓ってくる」というタイミングの悪さ。

      そして、最終的に男性と別れ家も出て仕事もなく1人、
      「これからどうしよう」と立ち尽くす(だったかな?)の場面。


    など、今まで色々見てきた
    「笑った」「泣いた」「(アクションが)激しかった」「面白かった」「(テーマについて)考えさせられた」、
    という爽快さなどで終わるお芝居とは一線を画した、
    「気持ち良さ」とは違う何かで観客の心を刺してくるお芝居だったなあ、と。

    ※ 女子高生に対して父親がチーズケーキを買って帰り~の場面だけは
      一瞬家族の絆が復活するのか?と想像し涙腺が緩んでしまったかな。


    ・ 最後の最後の数度噛みがあったくらいで
      本当に集中してましたね、役者陣全員。


    (良くなかったかな、と思った点)
    ・ 漫画家志望が女子高生の父親と偶然の出会いから関係を持つのはともかく、
      更にカウンセラーの弟とも偶然に出会って関係を持つ、
      というのは物語的に2対1の立ち位置を作るにしてもご都合主義的過ぎですかね。
      せめて、「漫画家志望がそうなるよう仕向けた」という物語を
      盛り込んで欲しかったかなあ、と。

    ・ 人数が少ない事もあり、役者陣が別役も同時に演じていたのですが、最初それが分からず、

      「カウンセラー宅に居座る叔父が漫画家志望と関係を持った?」
      と誤認してしまい、

      その後、漫画家志望が
      「不特定多数の男性とゆきずりの情事を重ねる事でのみ自分の心の空白を埋めていた」という
      これまでの登場人物(男性)全員が別役(ゆきずりの男)として登場しての
      心象風景的な描写で初めて
      「あ、別役をやってたのか」と理解したり、

      逆に漫画家志望が偶然女子高生の父親と会ったシーンは
      「あ、本当にこの人は女子高生の父親(役)の場面だったのね」と、
      更に物語が進んでから気づく、などこれまた誤認しかけてしまいました。

      可能なら人自体を、あるいは衣装ぐらいは分けた方が良かったかと。


    途中まで、演技の良さや「悲劇の一方向」への観せ方の良さで
    「☆4つかなー」などと思ってましたが、

    後半でかなり物語に惹きつけられた上で単なる悲劇とは違った、
    「優しさ」「狂気」など色々な結末を観せられた事で、

    「こういう演劇には多分触れた事がなかったかな?」と思っていた自分には
    とても「面白い」お芝居だったので☆5つとしました。

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    2016/03/06 17:30

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