オーファンズ 公演情報 ワタナベエンターテインメント「オーファンズ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    疑似家族に赤い靴
    孤児の兄弟と中年男。共同生活が始まってから変化する関係。
    外の世界に興味はあるが病弱のため憧れだけで暮らす仔犬のような弟の行動と純粋さ、その弟に時には暴力的な愛情しか出来なかった兄の粗野で抑圧されたような日々、彼ら2人の場面では見ているうちに次第に心が傷む。
    孤独の穴を埋めるように接し、孤児としての経験者として語る中年オヤジのハロルドが案外慈悲深い。
    「父性」という資質を持った話と感じたが、以前だったらなかなか素直に行動には出来そうにないことも、今のイクメンと呼ばれる人たちなら抵抗なくやってのけそうで、その辺も日本人の意識が変わっているんだろうな、と話とは関係なく思ったりして。
    谷さんの翻訳セリフも馴染みやすかった。

    2時間ちょいの舞台なのに休憩が入るのは海外戯曲のお約束なのかな。

    ネタバレBOX

    気がつけば高橋和也さんが良い塩梅のシブ中年になっていた。
    劇中「息子」と発言していたが、彼らの年齢はいくつぐらいだったんだろう。兄20代前半、弟10代後半くらいだったのかな。

    都会の廃屋で暮す2人兄弟。兄は窃盗などで生活費を稼ぎ、何もできない弟は一日中部屋の中でテレビが友達。弟が隠れて勉強をしているのがわかると、怒り暴れ、母親の形見の靴を外に投げ捨てたり。何もそこまでせんでも。
    ある日、兄トリートがてっきりお金持ちと思い誘拐してきたハロルド。一匹狼のヤクザであるハロルドは、兄弟の部屋を自分の隠れ家とし、彼らを支配下に置いて住み着いてしまう。

    疑似家族のような関係になり、ここでの父=ハロルドが、靴の紐が結べない病弱の弟にデッキシューズの存在を教え買い与えたり、ツナ+マヨパンがご馳走と思い込んでいる彼にいろんなご馳走や新品の洋服を与える。地図を見て外の世界に憧れを持たせるなど、ハロルドから知恵と教養、嗜好、肉親以外の愛情を学び、生きる楽しさを覚える弟フィリップ。
    裏稼業ではあるが手伝うことにより、お金も順調に稼げるようになり、機嫌は上々。が、同じようにスキンシップを欲しながら、すべてを晒すほどハロルドには近寄りがたく心のどこかで拒絶する兄トリート。
    ある日、地図を手に一人で散歩に出かけた弟。弟が留守とは知らず、日が暮れて帰宅した兄。弟が不在とわかると家中探すが見つからず、とてつもない孤独感に襲われ部屋中荒らしまくり、母親のコートを抱きしめながらいつの間にか眠ってしまい、そこへ帰宅した弟の手にしていた地図を引き裂いてしまう。ハロルドに教えられているうちに一人で出来るようになりつつある弟に、兄は自分が必要とされていないと自覚させられた間でもあり。
    兄弟が言い争う中、ハロルドが帰ってくるが、ジャケットの中は鮮血で覆われ、瀕死の状態で倒れこむ。2人の間で息絶えるハロルド。苦痛、激痛、衝動、トリートの弾けた絶叫で終演。
    かつて孤児だった男たちは母の愛に飢えたまま成長してしまったが、ハロルドの死は兄弟の将来も暗示しているとも思った。
    ブイヤベースの話を聞いた時の弟の「僕はもういらない、食べない、僕は戦わない」と言うセリフが、争うことしか知らない兄と対照的で印象深く、「怒りがこみあげたら10秒数えて冷静になれ」と言うセリフは実生活でもそのような事態になったら実践したいと思う。


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    2016/02/21 18:57

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