満足度★★★★
チャーミングな毒気
内田春菊の世界(自分も昔漫画を読んだ)を久々に思い出した。演劇のテキストに置き換わっても内田印の香を放っている。かつ、space雑遊で体感したどの芝居とも違う独特な空間--チラシのイメージを立体化した?--の快い肌触りに浸った。
)冒頭、突如挿入されるミュージカル風の下手ウマな独唱で主人公優子(専業主婦)の住む「小宇宙」が描写され、劇が始まる。古き米国TVホームドラマ風なパッケージがセット(お金持ちの設定)共々提示された感。 鼠の出没の疑いについての言及以後、外部(の人々)の「侵入」に対する無防備さとギリギリの防御の按配がスリリングで、「ある種の侵入(性的な)」を許してもなお主観的には防御戦の延長にあるという内田印ならでは感も一瞥しつつ、始まりは安定した「箱」に見えた家庭(夫と息子がいる)の骨組みも揺らぎ、この「揺らぎ」をも背景としながら、優子が何と対決しているのかよく分からないまま、それでもあたふたと戦う現場に引き込まれている。
最後にはオチがある(伏線もしっかりある)が、ここに収斂させるには解釈の幅が狭まり、人物の持つ存在感に委ねる余地のある演劇では(漫画等と違って)、「落ち切る」必要はない気がした(・・仄めかすだけで暴露しなくていい)。
が、そこまでの狂気じみた展開はかなりの毒気を持っているのに、そうした日常があり得る話に見え、軽やかに見れてしまう、そういう世界が出現するのを見る快感は否めない。
役者は皆が皆芝居が達者であったが、優子を演じた女優の「天然」具合のハマり方は当て書きか?と目を引くものがあった。
演出ペーター・ゲスナー氏の守備範囲の広さ(変幻自在さ?)もインパクト有り。