もっとも迷惑な客死 公演情報 上野くん、電話です「もっとも迷惑な客死」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    なぜ今、クラッシックなスパイモノを……
    競泳水着の上野友之さんと、クロムモリブデンの吉田電話さんの新ユニット。
    面白そうだなと、期待した。

    しかし……。

    ネタバレBOX

    スパイモノだということは、フライヤー等からもわかっていた。

    とても練られた上野友之さんらしいストーリーで、吉田電話さんを含め、役者の皆さんもなかなかの上手い人揃いだ。

    しかし、今なぜこんな古めかしいスパイモノをやるのか、その意図がわからない。
    スタイリッシュな演出と演技で、ストーリーを楽しむということなのだろうが、ストーリー重視のためか登場人物に深みがなく、いい役者を揃えたにもかかわらず、それが活かされていないのが残念。

    どこかの、特定しない西側の国のスパイたちの話らしいのだが、時代設定が現在ではなく、東西冷戦時ぐらいにしていることは、“東側”という台詞や(今や東側はロシア1国と言っていいから)、「写真とネガ」という台詞からもうかがえる。

    そういうスパイの時代を舞台にして冒頭からかなりスタイリッシュな演出で滑り出しは良かった。
    その前の前説的な吉田電話さんの雰囲気もとてもいい。

    しかし、どうも“人”が見えてこない。
    最初は諜報員4が主人公かと思っていたが、どうやらそうでもなく、“スパイたち”の群像劇的なものだとわかってくる。

    ところが、彼らの人物が浮かび上がってこない。台詞による関係の説明ぐらいしか。
    人事調査部の男とその妻との関係などは、短い台詞の中からきちん見えてきそうなものなのに、男が気持ちを単に台詞で簡単に言ってしまう程度なのだ。

    登場人物たちが、ストーリーを進めるためだけの駒にしか見えてこないのだ。
    だから、シリアスで、スタイリッシュなのが、薄っぺらく見えてしまった。

    役者さんたちの雰囲気は抜群に良いのだから、もったいないと思う。
    短い台詞ややり取りで、それぞれの関係や立場がもっと深さを増すことは十分にできたのではないか。
    そうなれば、ストーリーももっと面白く感じたのではないだろうか。

    ストーリーは練られていたと書いたが、実はそれほど意外感はない。
    裏切り者が誰かということで言えば、登場するスパイは4人。
    1は一番怪しいという舞台上の設定なので、裏切り者ではないだろう。新人は時期的に合わない。
    そうなるとスパイ4と人事調査部の男になるのだが、“一番意外性がある”というセオリーから考えると、裏切り者は人事調査の男しか考えられなく、果たしてそうだった。

    次にエレファントは誰か、という点については、一番普通な展開の、大使館の女であった。
    1がエレファントで、失った部下(生きていると後でわかるのだが)との関係で裏切り者であるが、実はダブルスパイだったのだ、なんていう、もう一捻りがなかったのが少し残念である。

    ラストに、ホテルのオーナーが登場するのも、いかにもどんでん返し的で、なんだかなーの印象しかない(一体どこから撃ったんだよ、は別にして。・笑)。

    結局、人物の造形が薄いので、誰が裏切り者であってもエレファントであっても、どうにでも理由が付けられるな、という感じなのだ。

    まあ、ストーリー展開とスタイリッシュな演出と役者を楽しめばいいのだが、やはり、「なぜこんな古めかしいスパイモノをテーマとした作品なのか」の意図がイマイチわからない。
    あえてクラッシックな雰囲気のスパイモノにしたのならば、その雰囲気を楽しめるような台詞や登場人物たちにしてほしかったと思う。007のような非現実的な、いかにも「スパイです」というようなぐらいの。

    あるいは、そんなことに想いを巡らすことのないぐらいに展開や演出が疾走してくれれば、それだけで楽しめたのだが。

    例えば、終盤から観客の興味は、“どう上手くこの芝居を終わらせるのか”ということへの一点にのみになっているので、ラストをうまく終わらせるなど。

    後は、スタイリッシュなシーンのつなぎや演出があるのだから、それを活かせるような気の効いた台詞がほしいところだ。ジェームズ・ポンドや電撃フリントみたいな感じのね。

    情報屋が殺される再現シーンは蛇足だった。
    それを見せるならば、そこに何か伏線などがほしいところだ。
    もう誰が犯人なのかわかっているのだから、わざわざ見せる必要はなかったと思う。

    途中ホテルの説明をするときに、「ケネディ」の名前出て、観客の1人が思わず吹き出してしまったが、まさに「ケネディ」はないよな、と思った。
    リアリティのないスパイモノのストーリーに中途半端なエピソードを付け加えてしまうことで、さらにリアリティに欠けてしまった。

    その人はその後も要所要所で笑っていたが、ひょっとしたらそういう見方が正しいのではないか、と思えてきた。
    すなわち、古めかしいスパイモノをシリアスに演じて見せることの面白さ、おかしさが本来のテーマなのではないかとも思えてしまうぐらいの中途半端さだ。

    気になったシーンが1つある。
    ホテルのオーナーが部屋を去るときに、部屋にいる全員が彼に対して深々と頭を下げるのだ。腰を折って。
    「え?」と思った。てっきり“どこか明らかにしない西側の国”の登場人物たちだと思っていたからだ。
    それって、「日本人」の仕草ですよね。
    欧米人がそんな挨拶しないですからね。
    ということは、日本のスパイ??

    先ほど、ケネディで思わず吹き出してしまった方ではないが、全員がきれいに揃って頭を下げている姿がおかしくって、笑いを堪えるのに苦労した。

    舞台の後で、ホテルのオーナーが一言付け加えるのだが、これがまた“いかにも”な感じで、これは笑っていいものだった。
    冒頭でスパイ4が、いい感じでオープニングを務めるのだから、ここも彼が閉めたほうがすっきりしたと思うのだが。


    ………遊び心、なのかな。

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    2015/11/21 06:43

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