満足度★★★
喜劇という名の悲劇
太宰治の原作は定番の「なりすまし」の喜劇であって、つまりこれを面白く見せるための手法も、自ずと定番のものにならざるを得ない。
それでは脚本の書き甲斐がないと考えたのか、ケラリーノ・サンドロビッチは、新設定を次々に導入、状況を二転三転させるのだが、そうなるとそもそもの原作の設定自体が無意味なものになってしまい、話も笑いも後半に行くほど沈滞化してしまう。
全体としては焦点の定まらない脚本だが、小出しのギャグには冴えたものも少なくなく、結構笑いは起きている。もっとも「笑い屋」の客が多いから、本当に可笑しいのかと言われると、実態は「そこそこ」と言ったところだろう。客はここぞと待ち構えてはいるのだが、すべってしまったギャグも少なくない。「受け」や「ツッコミ」の間の取り方が巧い役者の場合、笑いはどんどん高揚していくが、そうでもない役者との落差が激しかった。小池栄子のコメディエンヌとしてのセンスが抜群に光っている。