満足度★★★★★
幸福で残念な島
昨日は、八幡山ワーサルシアターに、笠川奈美さんの出演される劇団SUNS 轟 vol.1:「幸福で残念な島」を観に行って来ました。
IT億万長者となった同級生青山が、自ら企画したクルーザーでの自身の誕生パーティ。
嵐に遭い、楽しいはずのクルージングは一変、命からがら青山と同級生7人がたどり着いたのは、独自の文化を持った先住民「トビトビ」がいる島。
島から自分達の居た場所に戻れるようになる間、トビトビたちと接する内に、それぞれが抱える問題と向き合う中で其々に答えを見つけて行く物語。
舞台を観て感じたのは、言葉と心。自分の言葉に向き合うことは、自分の心に向き合うこと。向き合わなければ、得られないもの。目をそらさず向き合って、見つめることで得られるということ。
人にとっては、それはトラウマかも知れない。
自分のトラウマ、悩み、痛みと向き合うことは、心から血を流す事だと思う。だか、気づいていながら見ない振りをすることは、更に自分を傷つけて行くことでもある。
目を背けている自分を自覚し、その事に自己嫌悪し、向き合わなければいけないと解っていつつも、目を背け続け、向き合わずにいることは、宿題を放置し先伸ばしにした結果、いよいよやらなければいけない段になって、重くのしかかり泣きを見ることになるのと似ている。
佐々木恭祐さんの張本は、傭兵として戦い、人を殺めたことで心に深い痛手と後悔、苦しみを負い、そこから逃れられない姿が胸に痛く迫ってきた。
北村優実さんのエリカの、どんなに傷ついていても、ずっと笑顔を張り付けいる生きて行かなくてはいけない世界で、傷つき自分の心から目を背け続けるのにも疲れ果ている姿は、他人事ではなく、同じような思いや気持ちでいる人は多いのではないかと感じた。
エリカの姿は、どんなに辛く、悲しく、孤独でも、「大丈夫」と笑って見せていた去年までの私の姿でもあった。だから、一番、胸に迫って来るものがあった。
城生越大弥さんのトビトビの皇子ワクワクは、強くて温かい懐の深さと誠実さを感じさせた。
駒橋誉子さんのワクワクの母、トビトビの女王アヌークは、慈愛そのものの存在としてそこに居た。
水野絵理奈さんのアイリスは、優しく柔らかい眼差しで、それぞれの心に抱える痛みと苦悩を見つめ、寄り添って解き放つ癒しのガイド。
最後に、笠川奈美さんのトビトビの島民、モモエリは、真っ直ぐで、純粋でひまわりのように、明るくて可愛くて、出て来るだけでホッとする太陽みたいで、本当に素敵だった。
「トビトビ」とは心。トビトビを飛ばすと言うのは、きっと、自分の心を暗く覆っている苦しみや痛み、悩みと向き合い、耳を傾け、見つめ、自分が本当になりたい姿、したいことを認め、思いを言葉にして解き放つこと。
言葉には魂がある。言霊。言葉に魂が宿るのなら、美しい魂を宿らせるのがいい。その為には、自分の中の醜いことも、悪しきものを認め、向き合い、囚われた思いから解き放たれ、放逐しなければならない。
そして、それはとても痛みを伴うものだが、向き合い解き放たれ先に在るもの、それは間違いなく「光」なのだろう。
人は、それぞれの中に、きっと、「光」を持っている。それに、気づけた人には幸福であり、目を背け続けることを選んでしまった人には、残念な島。
自分の言葉と向き合うことは、自分の心に向き合うこと。向き合わなければ、得られないもの。目をそらさず向き合って、見つめることで得られるということ。
そんな思いが胸を浸し、最後の数分間は、気づいたら泣き通しの素敵な舞台でした。
文:麻美 雪