満足度★★★★★
「世界が止まる時の音」
昨日、池袋GEKIBAで、松本稽古さんが出演される偽物科学の旗揚げ公演、「世界が止まる時の音」を観て参りました。
「それね、時間停止装置。」そう言って依頼人が残していったのは、1つの部品と見知らぬ言語で書かれた研究ノートと時計の形をした時間停止装置、謎が詰め込まれたアタッシュケース。
その装置を完成させるべく、集められ依頼人添木の邸に残されたのは、プログラマーと天才ハッカー、数学者と翻訳家、料理人と添木の命を受け、彼らの面倒と護衛を受け持つ達人と呼ばれる若い女性。
其々の分野の才能を発揮して1週間で完成した装置は、世界を滅ぼしてしまうほどにとんでもないものだった。
淡々と笑いを含みつつ進んで行く物語は、時間停止装置の完成であっけなく終わって行くように見えたけれど、そこからが、実はこの舞台の見せ場。
静かにゆっくりと人間ドラマが紡がれて行く。
よく、楽しい時間を過ごすした時、とても幸せな時、「このまま時が止まってしまえばいい」と私たちは言うけれど、もしも、本当に時が止まってしまったらどうなのだろう。
果たして、そのままの状態で、時が止まり、全ての物の動きが止まったまま、年も取らず、今から1mmも一歩たりとも動けないまま、生きる時間も人生も止まってしまったら本当に幸せなんだろうか?
時間も命も人生も有限だからこそ、美しくて、いとおしくて、輝いてみえるのではないだろうか。
ましてや、停止させた時間の長い順番から物が消え、地球もこの世界も消えてしまうとしたら。それでも、無限の時を望むのか?時が止まってほしいと思うのか?
自分達が作り上げた装置の重大な欠陥に気づいた時、装置を使って時間を止めなかったプログラマー(進藤恵太さん)と時間を止めてしまったハッカー(橋本沙保里さん)、翻訳家(小川真紀さん)、料理人(松本稽古さん)、 数学者(寺床圭介さん)。
時間を止めてしまった彼らは、地球が消えると同じに、この世界から消え、時間を止めなかった彼は、消えることなく生き残れる可能性がある。
自分達の持てる力を結集し、地球が消えない方法を見つけ、プログラマーに託した彼らは、どうなるのだろうか。
残す者と残される者の想い、そこに描かれる人間ドラマは、美しくて悲しい。
有限の時間、生きること、愛することすこと。それは、限りがあるからこそ美しく、貴重で尊く、いとおしくも悲しく、そして愛すべきものなのだと思う。そんな想いが胸に沸々と沸き上がってきた瞬間に、涙がぽろぽろと溢れて止める術がなくなった。
出演されていた、全ての役者さんが、その人としてすぐ目の前に息づき、存在していた素晴らしさ。
中でも、「美味しいお料理で、癒します。」ふんわりと明るく可愛い、松本稽古さんの初春智子は、この舞台を柔らかく温かく包み込み、出てくる度にほっとする存在でした。
昨日、初日を迎えた舞台、本日の17時の回が千穐楽です。短くも濃い時間の流れる素敵な舞台です。
文:麻美 雪