期待度♪♪♪♪
私は,告発する・・・
『人民の敵』byイプセン
イプセンの戯曲は,比較的読みやすい作品と,物語の流れがどうもうまくつかめないものがあるようだ。『人民の敵』は,とても面白い作品だった。社会的正義を強く訴えて,周囲から浮いてしまうと,世間というものは非情であって,最後は誰も支援してくれないことになるという話だ。
ストックマン博士は,地質学に明るい。住民の希望を託して開発された温泉センター計画に待ったをかける。あわてたのは,兄である町長だ。すでに計画はかなり進んでいる。いまさら投資したものを白紙にして,地質汚染問題を提起されると,町はかえって窮地に陥る。そこまでの「汚染」なのだろうか?
ストックマンは,自分の研究結果を誇りに思っていた。医者でもあったので,汚染が進んでいる場所に,ヘルス・センターなどを建設しても,良い結果にはならないだろう。もう少し早く気がつけば良かったとはいえ,もはや,センターは建設してはいけない施設なのである。私は,告発する!
当初,地方新聞社は,たいへんなスクープであり,ぜひうちでプレス・リリースしたい,ということであった。先生は,町を救った英雄じゃないですか!と追従していた。町長の首が飛び,議会は一変するほどの事態になって,私は,過激派のレッテルを貼られるかと思うが,かまうことはないのだといきまく。
ところが,実際に町長と話あっていくと,確かに,町はひっくりかえる。ストックマン博士の指示で改造工事を行うと,おそらく町の計上予算は吹っ飛んでしまう。税金だってあげていくしかない。どこからその出費をおぎなうのがいいのだろうか。君は町を破滅させる気か?
町長と,マスコミを敵に回した博士は,まず失業する。夫人は,夕日とか春の空気を食べて生きていけるのかしら,と不安を隠せない。
イプセンの作品中では,技巧にこっていない凡作との評価もある。しかし,社会的改革を目指すリーダーたちには,切実なテーマであり,影響ははかりしれない。これも又,イプセンの作品。結構知名度は高いようだ。