満足度★★★★★
「雲にのった阿国」
出雲阿国と言えば、ややこ踊りを基にしてかぶき踊りを創始し、このかぶき踊りが変遷し、今の歌舞伎が出来上がったと言われている、安土桃山時代の女芸能者として知られている。
評判になった阿国歌舞伎をまねて作られた、 おもに京都六条三筋町の遊女が,張見世として四条河原に小屋を掛け興行したので遊女歌舞伎とも呼ばれた女歌舞伎は色っぽいものであり、風紀を乱すと言われ、後に女歌舞伎は禁止され、ならばと前髪姿の美少年だけで作ったのが若衆歌舞伎で、当時若衆と言うとどうしても、男色(陰間、男性同性愛者)を誘発するという事で、これも禁止、 そこから男色を想起させない野郎で行われる野郎歌舞伎が派生し、以来現在まで歌舞伎は、男だけで行われるようにはなった。
因みに、阿国と表記されるようになったのは、阿国が伝説化した17世紀後半以降で、歌舞伎の創始期として語る場合には、お国と表記しなければいけないらしい。しかし、ここでは、広く知られた阿国として敢えて表記する。
その大元の歌舞伎の創始者、出雲阿国が活躍した安土桃山時代は、江戸時代に含まれるので、舞台は江戸。幕末も江戸、江戸にはピストルもブーツも入って来ているし、文化も時代も今よりもグローバルでいろんなものが混沌と入り交じり、ある種何でもありの自由な空気が漂っていた時代というイメージもある。
その何でもありの自由な空気が、鳥獣戯画の舞台、「雲にのった阿国」には溢れていた。
それは、まるで江戸の芝居小屋に紛れ込んで観ているような、これぞエンターテイメントという、江戸のワンダーランド。
石山有里子さんの阿国は、去って行き、また戻って来る者をも受け入れ、天才と言われた阿国の踊りにかける命懸けの情熱と想い、その裏で抱える孤独、それでもなお消えることない踊りへの執着と熱情が胸に迫る。
松本稽古さんの、阿国ライバルお甲は、芯の真の所では、阿国に憧れ尊敬もしているが、阿国だけが持て囃され自分の踊りに自信があるだけに、自分の踊りが評価されず光が当たらない事への不満と怒り故に反発し、阿国を潰そうとするが、それは良く出来た姉に嫉妬し拗ねる妹のそれと似ていることを感じさせると同時に、表情や踊りに色気を感じた。
渡辺健太郎さんの捨丸冒頭の、おかめとひょっとこのお面を付け替えながら踊る時の躍りの所作と動きが美しく、色気があって見惚れた。
渋川チワワさんは、台詞も歌も本当にいい声で、演じた伊達錦之助が殊にかっこよかった。
あぜち守さんの秀次郎は、艶っぽく、袂を別った後も、阿国に惚れているが故に、阿国を潰そうとする捨丸に阿国を守るために、命を賭して対峙した時の姿が男前で素敵だった。
竹内くみこさんのお福は、出て来る度に、明るく楽しく場の空気を変え、和み、好きだなと思う。
Witty Lookのお二人のパフォーマンスは、本当にダイナミックで素晴らしく、会場からも感性とどよめきが起こっていた。
亀田雪人さんの大道芸人のパフォーマンスの身ごなしの軽やかさにため息を吐き、ハイジの声で知られる杉山佳寿子さんのパワフルで一見強欲にもみえるが、気っぷの良さと何処か憎めない堺屋かねと、ちねんまさふみさんの何役もこなす、軽妙洒脱さに笑い、あっという間に終わってしまった出雲阿国。
笑って、驚いて、ドキドキ、わくわくし、ホロリと泣ける、正に江戸の芝居小屋で観ているような最高のエンターテイメントに満ち溢れ、客席からは、嗚咽と歓声と拍手が沸き起こり、おひねりが飛び交う素晴らしい舞台でした。
文:麻美 雪