満足度★★★★
消えゆくものへの‥
「渡辺源四郎商店」今春の東京遠征に引っ提げてきたのは、地元青森の市民参加企画で作業を積み上げた青函連絡船八甲田丸のメモリアル劇だ。ローカルな話題がどの程度受け入れ可能な芝居になってるのか注目したが、見事だった。7姉妹とは青函連絡船に関わった人、ではなく船を擬人化した7人のことだ。冒頭とラストを除いた劇の大部分がこの擬人化された船のファミリードラマとなっており、妬み反目で姉妹喧嘩もすれば家族会議があったり。そして節目に別れが訪れる。それがやたらと悲しい。人との別れも悲しいが、廃線鉄道や衰退する産業に何か胸に迫る淋しさを覚えるのに等しく、造船技術の粋を結集して「物流の大動脈」と持てはやされた時代を経て、やがて消えて行った連絡船の物語は、変わりゆくもの、消えゆくものへの郷愁が凝縮されている。人間存在の有限性から、それは来ているのだろうか・・かぶり物をしたり終始コミカルであるのに突き上げて来るこの感動の波は何だ・・と困った。
擬人化と言えば「原子力ロボむつ」の心の呟きが思い出される。「船」たちの未来・・7隻7様の生々しい「その後」が紹介される。史実それじたいが強烈に何かを語って来る。
ところで、「引き際」の美というものもこの劇では描かれている。「彼女」らがやがて消え行く事は周知であり、それでもドラマが成立するのは家族という設定、そして「去り」の美しさが描かれているからで、「去り」が美しいのは彼女らの「使命」とそれへの「誇り」が疑えないものとして描かれているからだ。
引き際の「醜さ」をあられもなく見せている、かの原子力産業への複雑な思いも、作者にはあっただろうか・・。