4x1h Play #0 公演情報 4x1h project「4x1h Play #0」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    短篇の「テーマ」
    リーディングによるコンペで、観客によって選ばれた2本の短篇を、ひとりの演出家がつくるという企画モノ。

    ちかごろ、こういった短篇企画を目にする機会が増えた。演劇のスタイルが、追いかけきれないほどに多種多様になっている、今の状況にあっては、色々な形のものに、一度に触れることができるのは、嬉しい。

    ただ、演劇の短篇は、長篇とは全く違うもので、作る側も、観る側も、その差を、十分に意識する必要があるのではないかと、思う。この公演を観て、僕は、特に、それを感じたのだった。

    ネタバレBOX

    二作品とも、不満が残った。

    『ひとさまにみせるもんじゃない』(中屋敷法仁・作)では、衣装をかなぐり捨てた俳優たちが、舞台中央の台に殺到。テンションにまかせて、せりふを、叫ぶ。滑舌の悪い俳優が混じっているうえに、コンクリ打ちっぱなしの壁に反響して、聞き取れない。また、みな、台の上では、ポーズを取って、動きを止める。俳優たちは、よく動いていて、迫力満点なだけに、もったいない。

    『いそうろう』(篠田千明・作)は、二人芝居。二人のケンカの顛末を描く。脚本の眼目は、「冷蔵庫は、シャープの白。三段の真ん中が冷凍庫、下が野菜室」というような、異様とも思えるほどの、せりふにおける、細部の描写だと思ったのだけど、今回は、バックの紙に、せりふと同時に絵を描くという演出。せりふのスピード感は捨て去られ、ひとつひとつ、丁寧に演じて行く、ビジュアル重視の、まったりとした雰囲気。ビジュアルが勝ちすぎて、せりふが、耳に入らない。

    アフタートークで、演出の黒澤世莉は、自分の演出について、「脚本からテーマを取り出す」と発言。そして、中屋敷脚本について、「テーマが、『意味なんてないよーん』というものなので、僕にはつらかった」とも。

    僕は、中屋敷脚本に触れるのは、今回が初めて。痴漢に恋をして、変態たちと鉄道警察の、血みどろの抗争に巻き込まれる女子校生の物語には、内容はないかもしれないけど、意味はあると思った。というか、脚本のキモは、「文体」だと思った。

    たとえば、女子校生が恋する痴漢は、生き別れの母を捜して、女性の胸を触るのだけど、彼の登場には、常に、「オーッパイをタッチング・オーッパイをタッチング」というくだらないことこの上ないせりふが、お能における地謡よろしく、通奏低音のようにつきまとう。こういう、中身は無いけど、耳ざわりのいい言葉の積み重ねで、この本はできていると、僕は思った(町田康の文章みたい……というか)。

    同じく、『いそうろう』も、頭の中に、状況よりも先に、異常に精緻な情景を創りだしてしまうという、パラノイアチックな描写がつらつらと連なる、せりふの持つ文体にこそ、刺激があった(先の、篠田演出バージョンは、ビジュアルを極力排して、せりふを際立たせる演出だった)。

    両作品とも、リーディングを勝ち残った、聴かせる文体を持つ作品。「文体」は、脚本の「細部」と言えるだろう。それは、「テーマ」という、大きなものを前にしてしまうと、見えなくなってしまうものだ。でも、短篇の「テーマ」は、「細部」に宿ることもあるのではないか。黒澤さんのやり方は、「短篇」というものを、大きなテーマを欲しがる自分に、あわせようとしていると、感じた。短篇には、短篇の形があると思う僕には、違和感だけが、残ったのだった。

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    2008/09/24 02:13

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