人形の家 公演情報 シス・カンパニー「人形の家」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    いきのいい、古典
    面白かった! バルコニー席だったので、劇場中央の囲み舞台を見下ろす形。キャストも、しっかりと自分の味を活かして、新しいキャラクターを創りだしていた。

    それよりなにより、驚いたのが、百年以上前の戯曲の、面白さ。あらすじと、社会的な意義を知っているだけで、どこかおそれて、手を出さなかったことが悔やまれる。デヴィッド・ルヴォーさんの演出は、古典の面白さを知り尽くしている人のそれ。手を入れるのは、最小限。戯曲そのものの面白さを、存分に味合わせてくれた。こんな面白い作品に、素晴らしい舞台で出会えてよかった。

    帰りにブックファーストで戯曲を買った(新潮文庫)。

    ネタバレBOX

    物語自体の面白さが、舞台の良さを引き出しているのはもちろんだけれど、新潮文庫と比べてみて感心するのは、言葉の選択だ。それが、全く意味を変えずに、現代を映す。

    「床についたきりの母親の世話」は、「母の介護」。「昔のことを思い出して怖がっている」は、「昔のトラウマ」。「介護」や「トラウマ」という言葉を選ぶセンス。セットなしの囲み舞台も相まって、こういうささいな気配りだけで、19世紀は、ぐっと身近な世界になる。会話劇、しかも翻訳ものだということを、時宜にかなったな言葉たちは、一時、忘れさせてくれる。会話劇の面白さを知っているからこその、心配りだろう。

    役者たちの、自分のキャラクターを活かした、のびのびした演技もいい。スターの風格十分な宮沢りえや堤真一は言うに及ばず。脇役たちも、それぞれ、自分のキャラクターを加味して、より現代的な、生き生きとした人物たちを作った。

    特に、今の時代に、スポットを当てられるべきだと思ったのは、ノラを強請る、クログスタ。あらすじ化されてしまうと、影も形も出て来ない彼だけど、彼こそは、この物語のもう一人の主役なんじゃないかと思った。世間に不当に蔑まれていると信じる彼の、ノラへの強請りには、世の中に対する復讐心がこめられているよう。人同士のやりとりを失った現代、ことに目にするようになった心象がここにある。

    三幕で、彼は、人とのつながりを取り戻し、救われる。そして、ノラへの仕打ちを悔いて、全てを取り消す。現代を生きる僕は、ノラの自立以上に、彼が救われることに、心を打たれた。彼を演じる、山崎一の、思い詰めた無表情の向こう、おびえた目を持つ佇まいが、さらに響いた。

    「斬新なアプローチ」といううたい文句から受ける印象とは、随分違った舞台。デヴィットさんの意図は、くり返すが、戯曲そのものの持つ、普遍性を、そのまま現代に示すという、明確なもの。普遍性は、常に新しさを持つという意味では、斬新といえるかもしれないが、それよりも、近代演劇の祖といわれる作品の面白さを見ることで、近代演劇そのものが持っている、基本的な面白さを教えてもらったような気分。本当に、清々しい気持ちで、劇場を出た。カーテンコールでの、みなの、生き生きした表情も、印象的だった。

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    2008/09/18 16:00

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