満足度★★★★★
愛の再生
昨年6月に札幌で初演されたイナダ組の「わりと激しくゆっくりと」は、水曜どうでしょうの名物ディレクター藤村忠寿の役者初挑戦の作品として注目を浴びた。
あれから9ヶ月。満を持しての東京公演である。
藤村Dの話題ばかりが先行する作品であるが、武田晋、山村素絵のイナダ組が誇る名優が脇を締め、若手俳優が活き々とした演技で盛り上げる、素敵な芝居だ。
注目の藤村の演技は、水曜どうでしょうで見せる豪快なイメージとは正反対の小心で情けない役どころ。このギャップを知る人間には藤村の意外な一面を見たような錯覚を起こし、嬉しくなってしまう。藤村が台詞を口にするたびにニヤニヤと笑ってしまっている自分に気づく。
ストーリーは、子連れの再婚どうしの家族に別れた亭主が現れて、家族が崩壊のピンチを迎えるというもの。
ストーリーの底に流れるのは、お互いがお互いを気遣う優しさ。しかし、その優しさは本当の優しさなのか。単に自分が傷つきたくないだけの偽善なのではないか。そして気遣いという名の自己愛は崩壊する。
武田演じる「せいちゃん」と藤村演じる「青柳」。ふたりの正反対な「父親」は私のような50代の父親にグサグサ突き刺さる。自分はどちらの父親なのか。ああいう父親になりたいか。うらやましいか。
水曜どうでしょうのディレクターが出演しているからではなく、純粋に作品として面白く、役者藤村のポテンシャルにも驚かされた「わりと激しくゆっくりと」。必見である。